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[ 科学技術・大学 ]
(2017/10/11 05:00)
たんぱく質の構造、高解像度で解析
2017年のノーベル化学賞の受賞テーマは、たんぱく質などの生体分子の立体構造を高解像度で決められる「クライオ電子顕微鏡」の開発。生体分子を溶かした水溶液を凍らせて電子線を照射し、画像を得る仕組み。たんぱく質の構造を調べれば画期的な創薬につながるため、大学などの研究機関だけでなく創薬メーカーも注目する。X線やクライオ電顕を利用した構造解析の技術開発を進めてきた大阪大学特任教授の難波啓一氏に聞いた。
―クライオ電顕の活用は研究でどのようなメリットがありますか。
「最も大きなメリットは、試料を水溶液に溶かした状態でそのまま測定できることだ。試料をそのままの構造で凍らせられるため、生体内の水分子情報などを可視化できる。さらにマイナス170度C以下の低温で測定することで電子線によるダメージを減らせる利点もある。また、クライオ電顕の登場で、今までたんぱく質の結晶化に必要だった試料が100分の1以下の数マイクログラム(マイクロは100万分の1)程度で済むようになったことも大きい」
―従来のX線を利用したたんぱく質の構造解析はどのようなものですか。
「従来、たんぱく質の立体構造を知るには、たんぱく質の結晶を作り、大型放射光施設『スプリング8』などのX線を利用した実験が必要だった。ただ、たんぱく質の結晶化は難しく、結晶ができるまでに数カ月から数年かかるケースもある。結晶が作れないたんぱく質もある。結晶化してきれいな構造を決定できるたんぱく質は全体の1割に過ぎない」
―クライオ電顕の最近の開発動向は。
「13年に相補型金属酸化膜半導体(CMOS)を利用したクライオ電顕が登場し、『高速』『高感度』『高解像』の三拍子がそろった。特に高速であることが重要だ。動画撮影により動画を何枚か重ねることでシャープな画像を作れる。さらにX線を使った構造解析と同レベルの構造解析ができる可能性があるため、世界の創薬メーカーが注目している。日本企業も興味を持っている」
―今後の課題は。
「測定装置の空間解像度を上げることが必要だ。現在、たんぱく質の情報が登録されているデータベース『PDB』において、X線結晶構造解析による空間解像度は0・2ナノメートル(ナノは10億分の1)のものが多い。クライオ電顕でこの値を達成している事例はまだ1―2例だ。今後、空間解像度を0・2ナノメートル以下にできれば、基礎生命科学の研究や創薬が大いに進展するだろう」
【略歴】なんば・けいいち 80年(昭55)阪大院基礎工学研究科博士課程修了。81年米ブランダイス大学博士研究員。99年松下電器産業(現パナソニック)先端技術研究所リサーチディレクター。02年阪大教授、12年特別教授、17年栄誉教授、名誉教授、特任教授。工学博士。兵庫県出身、65歳。
【記者の目/生命科学研究の前進に期待】
大学や企業は、生命現象の解明や創薬のため、X線を使うたんぱく質結晶の構造解析に必死で取り組んでいる。しかしクライオ電顕の登場は、試料の結晶化の手間をなくし、生きている状態に近い生体情報の提供を可能にした。今後、装置や技術の進歩により、X線構造解析に並ぶ手法として生命科学の研究を大きく前進させることを期待したい。(冨井哲雄)
(2017/10/11 05:00)
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