[ オピニオン ]
(2018/1/8 05:00)
人間の視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の「五感」のうち嗅覚の重要性はあまり知られていない。だが最近の研究の進展により、「におい」に関する新規産業の可能性が指摘されている。
人以外の動物にとって嗅覚は食べ物を見つけたり、交尾のために異性と出会ったり、危険を察知したりする重要な感覚である。一方で現代の人間は、生きるための情報の大半を視覚と聴覚から得ている。
ただ人間も嗅覚を失うと、他の疾病より死亡率が高いという報告もある。科学技術振興機構(JST)の研究プロジェクトを総括する東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授は「においの感覚がなくなると不安になっていろいろな障害が出てくるようだ」と嗅覚の重要性を指摘する。
とはいえ、においは定量化が難しく、個人差が大きく、効果を測ることが難しい。香り物質は10万種類以上あり、化学構造からにおいの質を予想することが困難なほか、人間のにおい受容体は396種類もあり、四つしかない視覚に対して極めて複雑である。
東原教授らはヒト、マウス、昆虫などの生物を対象に、においやフェロモンとそれらを受容する仕組み、神経から脳への回路、そして最終的ににおいが情動や行動につながるかといった難問の解明に着手。その結果、におい受容体の遺伝情報や脳の情報処理、適応行動などを明らかにした。
例えば母親が赤ちゃんのにおいに愛着や安心を感じることを突き止めた。においを介した養育行動や親子関係構築の支援につながる可能性がある。また疾病による体臭の変化も健康状態を調べる上で重要なターゲットになるという。
「基礎研究の知見をさまざまな産業に生かし、においを使ったサービスを発信したい」と東原教授は話す。例えば商品の購買意欲を上げるにおいや、においを活用した医療など、新たな市場が生まれる可能性を指摘する。“におい産業”を創出して、日本に拠点を築いてほしいものだ。
(2018/1/8 05:00)