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(2018/6/24 07:00)
彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。
「本当にそんなことが新幹線内で起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。
それでは車内で遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。
* *
氷を確保せよ! ただし、財布は置いていけ!
とある土曜日、三十郎は職場の盟友A氏の通夜に参列するため、京都駅から東京駅へ向かった。故人と縁があるK君と、京都駅14時発“のぞみ号”に乗車するため、待ち合わせることにしたのである。車中でK君と、A氏とのエピソードを数多く語り合いながら、彼の冥福を祈った。K君とA氏の思い出を語り合っていたその時、筆者を可愛がってくれた、やはり故人の黒川氏のことをふと思い出した。今回は黒川氏との思い出を中心に記すことにしたい。
三十郎は人事異動をきっかけに、黒川氏との付き合いを始めた。三十郎は当時35歳であった。定時の17時半過ぎに丸の内ビルを出た三十郎たち一行は18時過ぎの広島行き最終に乗り込んだ。当時、広島までの乗車時間は約5時間。この車内での時間に備え、大丸デパートの地下街で弁当、酒、つまみ類を買いこんだ。三十郎以外のメンバーは40代であり、酒類は缶ビール、ワンカップ酒、ボトルウィスキーと多種にわたった。
乗車すると同時に(発車前から)、にぎやかな“夕食晩酌”が始まった。ビール・酒が底をついたのは静岡駅を通過する乗車約1時間後。ウィスキーへと移行していく準備を始めた。紙コップを準備し、デッキで飲料水を拝借し、飲み始めた。30分ほど経って、メンバーに疲れが見え始めたその時、事件は発生した。
その場面を再現してみよう。
黒川氏「そろそろちょっと氷が欲しいなぁ。さかい、確保してこい!」
三十郎「しかし、車内では販売していませんよ」
黒川氏「それを確保するのが営業マンの腕だ」
三十郎は不安ながらもうなずき、席を立とうとした。その時、黒川氏が一言、「財布は置いていけ!」
三十郎は席を立ち、いかにして氷を手に入れるべきか思案しながら、デッキへ向かった。デッキにはない。と、その時、遠くからワゴン販売が向かってきた。しかし、確認したところ氷は販売していないらしい。しかも、黒川氏の言に従ったため、金は持参していない。「どうしようか……」と思案顔でいると、ワゴンの中にある小ボトルが目に入った。
《そうだ!小ボトルがあるということは氷はあるはずだ!もっとも、どこにあるかが問題だ……》
その時、三十郎はハッと閃いた。
《ワゴン販売のステーションだ!あそこへ行けば氷はある!》
どのようにして手に入れるかは後で考えるとして、とりあえずワゴン販売ステーションに向かう。グリーン車を過ぎ、販売ステーションに到着した。「どうすべきか?」と思案したが、とりあえず、販売員に声を掛けることにした。
三十郎「氷はありますか?」
販売員「販売する氷はありません」
少し間が空いたあと、販売員は言葉を続けた。
販売員「何かお困りですか?」
三十郎はとたんに取り繕った。
「子どもが熱を出して困っているのです」
販売員「大変ですね」
三十郎「少しでよろしいので、分けていただくと助かるのですが……」
販売員「わかりました。どのくらい必要ですか?」
三十郎「コップ2個分お願いします」
よくもこんなことを思いついたものだ、と我ながら恥ずかしくなった。とはいえ、氷を手に入れたので席へと戻った。
黒川氏「お前良く手に入れたなぁ。偉い!」
メンバーの飲み会がさらに進んだ。名古屋を過ぎたころ、前の車両からワゴン車が向かってきた。そして、販売員が筆者の顔を見つけ、微笑んだ。
販売員「おかわり、いかがですか?」
三十郎は冷や汗をかきつつ、その場を取り繕った。
(2018/6/24 07:00)