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(2018/7/1 07:00)
彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。
「本当にそんなことが新幹線内で起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。
それでは車内で遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。
* *
“名”営業マン? それとも“迷”営業マン?
「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」なる映画で、華麗なる詐欺人生が描かれていた。しかし、騙された方はたまらない。本編は騙す方の「悪徳営業マン」のエピソードである。
携帯で呼び出しを受け、いそいそとデッキへ向かう営業マンがいた。大声で話すタイプらしく、ドア越しでも先方との会話内容が想像できる。
営業マン「お電話ありがとうございます。今、新幹線で東京へ向かっております。お急ぎの用ですね」
顧客 「この前の品物が評判が良いので追加注文したいのだが……」
営業マン「あれは苦労して手配しました。先約のある中から優先的におまわししたものです」
顧客「今度もぜひ頼むよ」
営業マン「ちょっと時間をください。これは人気アイテムであり、なかなか手に入らない品です」
顧客「そう言わずに、この前みたいにうまくやってくれよ」
営業マン「困りましたね。今、別件で東京に向かっているところでもありますし……。でも、何とか頑張ってみましょう。この道、長くやっている私を頼られているのですから、何とかしましょう!」
顧客との会話が終わり、自分の会社に電話連絡し始めたらしい。
営業マン「在庫を確認してくれ。先日、別件で返送された品がまだあったよな」
三十郎は思った。
《こいつ、営業マンの風上にもおけない奴だな。在庫がある商品をもったいぶって恩を着せながら売るとは……》
別のケースでは、隣合わせの席で移動している客と営業マンの会話に、こんなものがあった。
顧客「問題は価格だよ。何とか1,000円を切り、3ケタにならないか。そうすれば資材部門も了承するだろうし、この場で即決できるぞ」
営業マン「わかりました。この場で上司に連絡し、直談判し了承を得ます」
やがて営業マンは携帯を取り出し、会社の上司との会話をこれ見よがしに車中で始めた。
営業マン「今、お客様と一緒にいます。この場で単価を決めれば発注願えるとのことです。私の上得意客さんからのご依頼でもありますし、何とかこの価格で承認いただけませんか。赤字分は次回の商談で穴埋めしますので……」
こんな会話の後、営業マンは顧客に話かけた。
営業マン「お聞きいただきましたように、上司の承認を得ました」
顧客「さすがに君は行動が早いね。わかった!発注するよ」
営業マン「ありがとうございます。東京に着いたらお食事に致しましょうか」
この会話で終わる商談ならば、賞賛に値する営業マンなのだが、彼はデッキへ向かい、携帯で先ほどの上司と会話を進めた。
営業マン「ありがとうございました。お陰でうまくまとまりました」
上司「お前も芝居がうまくなったなぁ。その値段なら相談もいらんのに……」
事件後始末記
読者諸氏も注意してほしいのだが、この世の中には、こんな営業マンがゴマンといる。
こんな映画を思い出した。「白昼の死角」(製作1979年、上映時間154分、監督・村川透、原作・高木彬光)。頭脳詐欺集団が描かれている。
戦後の混乱の中で、エリート集団が実行した完全詐欺を、騙す側から描いた傑作である。造船会社を利用した手形パクリ、外交特権を利用した詐欺類だが、騙す夏木薫も良いし、騙される長門勇、佐藤慶、成田三樹夫らの脇役陣が記憶に残るおすすめの一作。会社ビルを寸借し、大勢の仲間でニセ職場風景を描くのは、「スティング」の電信会社幹部室と場外馬券場風景と重なる。
もう1つ、聖書を売り歩くサギ師と少女のロード・ムービー「ペーパー・ムーン」も思い出す(製作1973年、103分、監督・ピーター・ボグダノビッチ)。実の親子であるライアン・オニール、テータム・オニールが演じた珠玉の作である。
(雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)
(2018/7/1 07:00)