(2019/2/13 05:00)
製品づくりにおいて一番大事なこととはなんだろうか。コスト、売上などさまざまな答えが出てくるかもしれない。だが、顧客が安全に製品を使えることこそ、当たり前だが最も大事なことではないだろうか。万が一、製品によってケガなどの事故が起きれば、企業は責任を問われ、信頼失墜に繋がりかねない。
製品の安全について、設計・生産をはじめ、経営層も合わせて全社的に作りあげる思想や手法のことを「システム安全」と呼ぶ。
社会人が在職のまま実践的に学べる国内唯一の機関が新潟県にある。長岡技術科学大学の専門職大学院 技術経営研究科「システム安全専攻」だ。
今後ますますIoT、AIが発展し、生産用ロボットと人が協働するケースが増加する。ロボット側の安全の確立は、安全な労働環境の確保という観点からも欠かせない。
“安全をしっかりと学び、仕事に生かして、収益につなげる”という強い思いのもとに、多くの受講生が学んでいる。
「システム安全」とは
製品のライフサイクル=【設計】・【製造】・【使用】の全ての段階において、危険につながる要因を洗い出し、その影響を解析・評価した上で、対応する。この手法を「システム安全」という。製品を誤使用したり、壊れたりしたときでも安全が確保できることが目標だ。
システム安全は最高の安全を合理的に達成する手法として、航空宇宙産業などイノベーションの安全を支える源泉となっている。
同専攻では、はじめに基礎理論を学び、その上で、「産業技術政策論」、「技術経営論」、「労働安全マネジメント」といった政策的な側面に着目した科目と、「国際規格と安全技術」、「安全認証・安全診断」、「安全論理学」、「産業システム安全設計」といった技術的側面の科目を選択必修する。
そして、「火災と爆発」、「ロボット」、「技術経営特論」、「組織経営と安全法務」、「ファイナンス」といった専門的な科目を選択して受講できる。
2006年に設置されてから現役社会人の約100人が受講。ほとんどが所属企業の経営層から薦められてきたという。
同大の三上喜貴副学長は「安全は企業活動の上で決しておろそかにできず、対策をしっかりと取ることで成長曲線を描ける、と考えた経営者の意識が、行動につながっているのではないか」と分析する。
経営者層こそ、安全のコスト・メリットの理解を
ただ、日本企業を見渡すと、特に中小企業の経営者層が安全に対して理解を持っているとはまだ言いがたい、と専攻長の門脇敏教授は認識している。
「海外と比べて、現場の技術者のレベルが高いのも一因だろう。しかし、安全というものを見誤ると足をすくわれる危険性がある」と警鐘を鳴らす。
2007年以来、10人の従業員を送り込んでいる日立プラントサービス(東京都豊島区)。当時社長を務めていた村山義治氏は「受講によって、安全の重要性を再確認できる。そして、海外でビジネスをする上で、システム安全の理解は欠かせない」と強調する。
グローバル化が進む中、異なる文化・価値観や言語を持つ人間同士が協働して一つの物を作る場合、事故を予防するためには共通の安全認識を持つ必要がある。
システム安全の根底にあるのは、「人間は必ずミスを犯す」という前提だ。
これに立脚して、どの従業員でも安全に作業でき、引き渡し後も顧客の誰でもがケガなどの事故を起こさずに製造物を使えるよう、組織一丸で安全を作りあげること。
これこそが、システム安全の目的である。
生産現場の自動化への対応においてもシステム安全は不可欠だ。ロボットアームなどの自動機と人が同じラインで協働する生産方法の導入も進んでいる。
セーフティグローバル推進機構の向殿政男会長はこう言い切る。
「機械の安全性を担保しないと、作業中に人が危険に巻き込まれてしまう。そこで、全社を挙げて規約やシステム作りを展開するのに、システム安全の考えが適している」。
生産性向上が叫ばれる今、企業規模にかかわらず、人と自動機との連携が必要になる場面は増えていく。
協調を進め、企業を成長に導く一つの解として「システム安全」を学ぶことが戦略的な経営に欠かせないといえよう。
(2019/2/13 05:00)