(2020/7/20 05:00)
選考委員から「犬を出すのはずるい」という意見もでたそうだ。第163回直木賞は、馳星周氏(55歳)の『少年と犬』に決まった。
馳さんと言えば、新宿・歌舞伎町を舞台に、さまざまな国籍の人間が、欲望と暴力のなかで織りなす人間模様を描いた『不夜城』など、ノワール(暗黒)小説の旗手と目される小説家。
受賞作は1匹の犬が東日本大震災で被災した岩手県・釜石から飼い主の元を離れ、さまざまな人々との交流を重ねる連作スタイルをとる。過酷な境遇の人たちが犬と出会い、救いを得る“泣ける”作品だ。
馳さんは「犬を出すのはずるいと分かっていても許してください。書きたかったんです」と、生まれ故郷、北海道浦河町の居酒屋からのオンライン会見で、素直な気持ちを伝えた。サングラスに片手にはワイングラスという姿は、無頼を演出するが「動物は神様がつかわしてくれたもの」と、愛犬家の一面も。
直木賞とはなぜか縁が遠く、不夜城をはじめ、過去6回候補になりながら、落選が続いた。7度目の候補となった今回も「落選でもがっかりしないで」と周囲を気遣った。「ノワールも書くが、そうでないものも書く。そんな心境です」。次の作品が楽しみだ。
(2020/7/20 05:00)