(2022/8/26 05:00)
岸田文雄首相が原子力発電所の新増設を検討する考えを表明した。2011年の東日本大震災以降、原発の新増設は想定していなかったが、方針を転換し年内に具体案をまとめる。脱炭素とエネルギー安全保障を両立でき、原発に対する世論も肯定意見が増えつつある。日本のエネルギー自給率を引き上げ、電力の安定供給につながる施策として首相の判断を評価したい。
政府は自治体や事業者任せでなく、前面に立って安全性の確保や避難計画などの防災対策、テロ対策を徹底し、地元の同意形成に努めてもらいたい。使用済み核燃料の後処理も対策を講じる必要がある。公明党内の慎重論に岸田首相がどこまで指導力を発揮できるかも問われる。
岸田首相は短期および中長期の視点で電力の確保に臨む意向だ。23年夏以降に再稼働する原発を最大17基に増やすほか、原則40年(最長60年)としている原発の運転期間の延長や、安全性が高く効率的とされる次世代型原子炉の建設を中長期的に進めることなどを想定している。
“綱渡り”を続ける日本の電力事情は、ロシアのウクライナ侵攻以前から露呈していた。東日本大震災で原発を停止した一方、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い老朽火力発電所を休廃止したことが電力供給力を脆弱(ぜいじゃく)にした。6月末には4日連続で東京電力管内で「電力需給ひっ迫注意報」が発令された。企業や家庭が節電しなければ停電しかねない事態は異常だ。
経済産業省・資源エネルギー庁が6月にまとめた「地域との共生と国民理解の促進」によると、原発に関する世論調査は経年変化し、肯定意見が増える一方で否定意見が減少している。電力安定供給や脱炭素への意識の高まりが背景にある。
原子力の電源構成比は00年度の34%から20年度に4%まで低下した。政府は再生可能エネルギーの主力電源化を目指しつつ、安全を確保できた原発の活用を通じて、電力の安定供給体制を実現してもらいたい。
(おことわり)「揺れる大国経済㊦」は29日付で掲載します。
(2022/8/26 05:00)
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