(2022/11/10 05:00)
経済産業省は8日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)原子力小委員会で、最長60年と定めた原子力発電所の運転期間を延長する2案を示した。原発が停止していた期間を運転年数から差し引く案が有力視されている。原子力規制委員会の厳格な安全審査で老朽化リスクを押さえ込むことを前提に、原発の運転延長で電力の安定供給と脱炭素を両立したい。
現在、原発の運転期間は原則40年、最長で20年延長できる。2011年の東日本大震災による東京電力福島第一原発事故を受けて原子炉等規制法で定められた。岸田文雄政権は電力の安定供給に向け原発の新増設を進める方針を打ち出したものの、実現に時間を要する。安全性に優れた次世代型原子炉の実用化は30年代とされる。当面は既存の原発を最大限活用する政権の方針は現実的な判断と言える。
経産省が示した運転延長に向けた2案は、運転期間に上限を設けない案と、現状の原則40年・最長20年延長を維持しつつ、規制委の審査などで停止していた期間を運転年数から除外する案。老朽化リスクを懸念しかねない世論を考慮し、後者が有力視されている。規制委は運転開始から40年で行っている安全審査を強化し、30年超の原発は最長10年単位で科学的に安全かを審査・認可する方針を示す。
海外では英仏などが原発の運転期間に上限を設けず、10年ごとに安全性を審査している。日本は地震大国でもあり、日本独自の厳格な審査基準により安全には万全を期してもらいたい。
“綱渡り”を続ける日本の電力事情は、ロシアのウクライナ侵攻でさらに鮮明になった。6月末には4日連続で東京電力管内で「電力需給ひっ迫注意報」が発令され、今冬も政府が企業や家庭に節電協力を求める事態に陥っている。日本の原子力の電源構成比は00年度の34%から20年度に4%まで大幅に低下している。政府は再生可能エネルギーの主力電源化を目指しつつ、安全を確保できた原発を最大限活用する施策を推進し、電力の安定供給と価格高騰を抑制する体制を整えてもらいたい。
(2022/11/10 05:00)