社説/税制改正の課題(中)投資喚起も所得格差問題に懸念

(2022/12/16 05:00)

2023年度税制改正には所得格差の是正よりも株式市場を優先する内容が盛り込まれる。金融所得課税の強化の対象は年間所得30億円を超える超富裕層に限られ、所得格差の是正は極めて小さな一歩にとどまった。少額投資非課税制度(NISA)の大幅拡充は、貯蓄から投資への流れを促すと評価できる半面、投資する余裕のある世帯が富を増やし、むしろ格差を広げかねない。日本経済の底上げに向け、格差問題の継続的な議論を政府・与党に求めたい。

金融所得課税は「1億円の壁」の是正が課題だった。給与所得は累進的に最大55%(地方税を含む)まで課税される一方、株式譲渡益などの金融所得に課される税率は一律20%(同)で、総所得1億円を境に所得税の負担率が下がる不公平が問題視されていた。今回の税制改正で課税強化の対象となる超富裕層は全国で200―300人程度にとどまり、格差是正には程遠いと言わざるを得ない。

1億円の壁の是正は「貯蓄から投資へ」の流れに逆行し、株式市場に影響を及ぼすとして22年度税制改正では見送られた経緯がある。今回の税制改正でも、株式譲渡益でスタートアップに投資した場合、最大20億円まで非課税とするなど株式市場に配慮した税制改正が目立つ。

NISA制度の拡充も投資を促すための改正で、こちらも所得格差を拡大させる懸念が残る。NISAは年間投資枠が120万円で5年間投資できる「一般NISA」、同40万円で20年間投資できる「つみたてNISA」があり、非課税期間はそれぞれ23年、42年までの時限措置だった。この時限措置を恒久化するほか、年間投資枠を「一般」で2倍の240万円、「つみたて」で3倍の120万円に大幅に拡大し投資を促す。

今後5年間でNISAの口座3400万、投資額56兆円に増やす計画を実現しつつ、構造的な賃上げなどを通じて誰もが投資に参加できる環境も整える必要があるだろう。「学び直し」により成長分野への労働移動を促す施策などを推進し、分厚い中間層の実現に近づきたい。

(2022/12/16 05:00)

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