社説/税制改正の課題(下)防衛増税、政権の実行力に懸念

(2022/12/19 05:00)

与党は防衛費増額に向けた増税について、詳細の決定を1年後に先送ることを決めた。拙速な増税議論に猛反発する声が与党内で相次いだため、2023年度税制改正大綱には増税時期を24年以降の適切な時期と曖昧な表現とした。岸田文雄首相が表明していた防衛強化の内容、予算、財源を一体で決めるとの所期の目標には程遠く、「規模ありき」で始まった財源議論は多くの課題を残した。政府・与党は1年をかけて審議を深め、国民が納得できる恒久財源を確保することが求められる。

与党は増税する3税目の利率などはまとめたが、肝心な増税の開始時期といった詳細は示せなかった。増税財源が宙に浮いたまま防衛3文書を改定する事態を招いた政権の責任は重い。

与党は防衛費の増税財源について、企業活動に影響する法人増税、東日本大震災の復興特別所得税の税率引き下げと所得税への付加税、そしてたばこ税で賄う案をまとめた。法人増税については閣僚からも「投資と賃上げに水を差すことにならないよう慎重であるべきだ」と異例の反発の声があり、岸田首相の求心力低下も懸念される。

27年度の防衛費を国内総生産(GDP)比で2%にする、23―27年度の5年間の防衛費を43兆円に増やす、財源確保に向けて増税を検討する―。岸田首相はこれら重要な関係閣僚への指示を11月末から12月8日に行い、わずか1週間後の16日に税制改正大綱を決めた。議論の拙速感は否めず、継続協議となったのも当然の帰結と言える。

防衛費の増額を国債で賄おうとした安倍晋三元首相に対し、増税による恒久財源の確保を目指した岸田首相の考え方自体は評価できる。だが防衛力強化の中身を十分に国民に伝える前に増税を求めるプロセスには無理があり、岸田首相が経済界に賃上げ3%以上を求めたことと法人増税には矛盾も生じている。

政府・与党は防衛増税を優先するあまり、岸田首相が目指す子ども予算倍増を裏付ける少子化対策の財源議論も手付かずのまま、来夏に先送りする。政権の実行力が強く問われる。

(2022/12/19 05:00)

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