年末商戦にみる「返金」の慣習 ただ乗りで傷つくSCM

(2023/11/1 12:00)

今年もまもなくブラックフライデーがやってくる。年末商戦の始まりである。本場米国では、年間最大の商機であると同時に「返品」が増える時期でもある。サプライチェーン・マネジメント(SCM)の観点より「返品」について考察してみたい。

  • 7月に米大手文具小売チェーンのステープルズが新たにアマゾンの返品受付窓口に加わった(著者撮影)

米ASCMが推進する「世界標準のSCM」の整理によれば、サプライチェーン(供給網)を構成する要素として「仕入」「製造」「輸送」に「返品」を加えるのがお約束だ。「返品」と聞くとつい循環経済を目指す近時の潮流を意識したものと考えがちだが、実はかなり前から存在する。これはSCM発祥の地である米国の商慣習に由来するものとみるのが通説だ。

米国の小売業は、伝統的に販売した商品の返品を受け入れることに寛容だ。特段の条件なしに返品・返金に応じるケースが多い。日本国内に店舗を展開している米コストコ・ホールセールなどでこの米国流の「返品」を体験された方も多いことだろう。返品された品物は状態をチェックした上で再び陳列棚に並べられる。

電子商取引(EC)の雄アマゾンもまた返品に寛容な米国小売業の一つだ。その広く返品を受け付ける許容する方針は伝統的な米国の小売業のスタイルを踏襲したものに見える。しかし、返品された品物が向かう先が再販売用の倉庫とは限らない。実店舗であれば再販売できる物であっても返品のロジスティクスコストに見合わない場合は廃棄されることもあるという。

そのような中、7月に米大手文具小売チェーンのステープルズが新たにアマゾンの返品受付窓口に加わった。こちらに持ち込む場合の返品送料は無料だ。しかし、他の回収拠点の中には有料化したケースもあるという。静脈SCMの今後が注目されるところだ。

ショッピングは楽しい。しかし返品送料無料を奇貨としてその楽しみだけを享受するのは一種のフリーライドだ。いずれはエコシステムとしてのサプライチェーンが傷つくことになる。温故知新、「返品」がサプライチェーンを構成する要素の一つであることに留意したい。

◇著者:MTIプロジェクト 『基礎から学べる!世界標準のSCM教本(日刊工業新聞)』の著者である山本圭一・水谷禎志・行本顕の3氏によって創設された世界標準のSCM普及推進プロジェクト。MTIは「水山行」のラテン語の頭文字。本連載はメンバーのうちASCMのSCMインストラクター資格を持つ行本顕が執筆を担当

(2023/11/1 12:00)

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