(2024/2/16 12:00)
普通に暮らすだけで、人々が活動的で健康になる社会を構築しよう―。千葉大学はこんな産学協働プロジェクトを進めている。高齢者のウェルビーイング(心身の幸福)につながる社会活動や運動で、社会保障費はどれくらい低減するか。別の機構の大規模調査で確立された手法を使い、具体事例で数値を算出し、行政や企業などの背中を押そうと取り組んでいる。
千葉大学が目指すのは社会や生活の場を工夫することで、そこで生きる人々の健康度が自然と高まるコミュニティーの構築だ。医師の指導を受けて生活習慣を見直すといった1次予防より前、という意味で〝ゼロ次予防〟をうたう。
文部科学省・科学技術振興機構(JST)による産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)などの支援で進めてきた。特に目新しいのは効果の評価の部分だ。同大予防医学センターは、近藤克則教授が代表理事を務める日本老年学的評価研究機構が開発した評価手法などを活用し、複数の共同研究を走らせている。
野村不動産、野村不動産ウェルネスとは、野村不動産ウェルネスが運営、運動プログラムや食事を提供するサービス付き高齢者向け住宅の入居者で調査した。入居者と一般高齢者の比較のため年齢、性、婚姻、資産、高血圧症や糖尿病の基礎疾患など、10数の項目で同等の対象者を抽出。週1回以上のグループ活動を尋ねるとスポーツや趣味、学習・教養を実施する入居者の割合は、一般よりかなり高かった。
さらに要支援・要介護リスク評価尺度の1年後の変化を見たところ、入居者は一般よりリスクが抑えられた。その差から「3年以内に要支援・要介護認定を新たに受ける確率は、入居で24%から22%に下げられる」「100人当たりの6年間の累積介護費用は最大570万円減らせる」と算出した。同センターの中込敦士特任准教授は「企業サービスの評価において、要支援・要介護の変化は強力なアウトカムだ」としている。
愛知県武豊町とは「憩いのサロン」と呼ばれる住民主体の〝通いの場〟づくりを進め、事業開始前後5年以上にわたり、参加者と非参加者の健康状態を追跡した。その結果、非参加に比べ参加群では、背景要因の違いを考慮しても、要介護認定割合がおよそ半分に。認知機能の低下も7年間で3割抑制することを明らかにした。
またアミタホールディングスと奈良県生駒市で調べた、地域活動拠点に置いたゴミ捨て場「MEGURU STATION」(通称こみすて)の利用も同様だ。利用者は健康意識や幸福感が1―3割も増加。頻繁に利用するユーザーの要介護リスク抑制で、6年間の累積介護費用約920万円の抑制効果があるとした。
健康まちづくりやウェルビーイングを掲げる自治体や企業は多い。税金投入や新ビジネス開発など後押しする、大学ならではの社会貢献といえそうだ。
(2024/2/16 12:00)
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