山形大学、3Dプリンターで“すし” 宇宙船搭載へ小型化図る

(2024/3/29 12:00)

宇宙で“すし”を食べる―。こんなユニークな発想の実現に向けて、山形大学大学院理工学研究科の古川英光教授らは、3Dフードプリンター技術を用いた食品プロジェクトに取り組んでいる。無重量の環境で稼働する装置を開発し、宇宙での食生活に新たな展望を開こうとしている。宇宙船に搭載するには装置の小型化も求められる。将来の目標としては、弁当箱サイズとなる装置の実現も目指している。

  • 3Dフードプリンターで造形したすし

「人類が宇宙を旅行する時代が訪れようとしている。長期間の旅ともなれば『食』をどうするか。これは考えなければならない」。古川教授は、宇宙向けの3Dフードプリンター開発へのアプローチをこう語る。ゲルなどのやわらかい素材を使って3Dゲルプリンターによる各種のやわらかアイテムを創出している古川研究室。宇宙向け食品を3Dフードプリンターで造形する本格的な試みは、2019年ごろから始まったという。

当時、経済産業省の若手有志チームによる食の世界に革新的技術を取り入れるための活動「フードテック」研究会などとの交流から、IHIエアロスペース(東京都江東区)と接点を持った。そこで古川研究室は、21年から3Dフードプリンター技術を用いた宇宙向けの食品プロジェクトで同社と連携を組むことになった。

宇宙旅行時代を見据え、IHIエアロスペースとしては、萌芽(ほうが)的な取り組みの1例になる。同社の「不連続研究」と呼ぶ制度を活用した放課後の「部活動」のような取り組みとして活動を継続している。連携する同社生産センターでは「宇宙でもおいしいものを食べられるようにしたい。先をにらんだ取り組みになる」(生産技術グループ)とし、未来を見つめている。

  • 古川研究室が開発したレーザー式3Dフードプリンター

共同研究の取り組みの中で、23年には東京ビッグサイトで開かれたジャパンモビリティショーで、宇宙向けの食品プリンターを展示した。すしを宇宙に転送するというコンセプトで、かまぼこメーカーなどとも連携。インクジェットヘッドによる3Dフードプリンターですしを造形した。

山形大ではスクリュー式、レーザー・バスタブ式、レーザー・パウダー式など多様な3Dフードプリンターを開発している。現時点で無重量の環境下では、造形物(食品)を下から積層するのではなく、ペースト状の食材をノズルなどで上から打ちつける方式を重視する。

実際に宇宙での実証試験、食材の開発など宇宙でのすしづくりは、やってみなければ分からない課題も多い。古川教授は「技術的に宇宙での食品造形は可能。造形の際、どの方式が最適なのかも含め選択できる技術を磨き、食材開発など地上での準備を各方面と連携して進めたい」としている。

現状で卓上サイズの装置を一段と小型化する取り組みも視野に入れる。手で持てる弁当箱内に3Dフードプリンターを内蔵した装置を想定する。古川教授は「宇宙では小型化が欠かせない」とし、新たな連携も探っている。

(2024/3/29 12:00)

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