社説/日銀の追加利上げ 消費鈍く「実質賃金」見極めを

(2024/7/25 05:00)

日銀は30、31の両日に開く金融政策決定会合で、月6兆円規模で実施している国債買い入れ額の減額幅と減額ペースを決める。今後1―2年程度の計画になる。買い入れ額を減額しても日銀の国債保有残高が巨額のため、長期金利の過度な上昇は想定しにくいとみられる。焦点は短期金利の利上げにいつ踏み込むかだ。個人消費の停滞が続いているだけに、実質賃金がプラス転換するタイミングを捉えるなど、慎重な判断を求めたい。

日銀は、黒田東彦前総裁が就任した直後の2013年4月、「量的・質的金融緩和」を導入し、大量の国債買い入れを始めた。現在、日銀は600兆円弱もの国債を保有し、国債発行残高の50%超を占める。黒田氏就任直後の同3月末は11・6%に過ぎず、日銀による国債買い入れのすさまじさが分かる。

日銀は3月にマイナス金利政策を解除し、短期金利である政策金利を17年ぶりに引き上げ、長期金利の上昇を抑える長短金利操作も撤廃した。ただ、市場が混乱しないよう、月6兆円規模の国債買い入れは継続していた。今回、この買い入れ額を減らし、金融政策の正常化へ一歩前進するものと評価したい。

日銀は、今回の会合で利上げに動かないとのエコノミストの見方が多い。24年春季労使交渉(春闘)で33年ぶりの賃上げ率5%台を実現したが、実質賃金は5月まで26カ月連続で前年比マイナスが続く。政府試算によると24年度の実質成長率は消費の停滞で0・9%にとどまる。

エコノミストの多くは実質賃金のプラス転換が期待される9月ないし10月の会合で利上げに動くと予測する。日銀は「物価と賃金の好循環」を慎重に見極め、金融正常化に向かいたい。

ただ、一連の政策転換に動いても、大幅な円安是正は期待しにくい。日銀は国債買い入れ自体は継続し、保有する国債残高の圧縮まで踏み込まない。利上げしても、5%超の日米政策金利差を縮めるには時間がかかる。金融政策にはおのずと限界があり、企業は円の購買力を引き上げる成長投資こそ中長期的に推進することが求められる。

(2024/7/25 05:00)

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