(2024/7/26 05:00)
2024年度の最低賃金の「目安」が金額・増加幅ともに過去最高となった。物価高を反映した増額で、非正規雇用者らの賃金が底上げされると評価したい。一方、労務費の価格転嫁が不十分な中小企業には重荷で、支払い能力がどこまで勘案されたのか、「金額ありき」でなかったのか懸念も残る。価格転嫁を適正に行い、中小企業の稼ぐ力も高めなければ、25年度以降の賃上げが“息切れ”しかねないと留意する必要がある。
中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)は25日、24年度の最低賃金(時給)を全国平均で50円引き上げ、1054円とする「目安」を正式に決定した。1054円は23年度比で5%増となり、連合が集計した24年春季労使交渉(春闘)の平均賃上げ率5・1%がほぼ反映された形だ。最低賃金は各都道府県の審議会が目安に基づいて8月中にも決定する。目安を上回る可能性もあり、期待したい。
岸田文雄首相は30年代半ばまでに時給1500円とする目標を掲げる。24年度並みの増額を継続する必要があるが、中小企業の対応にも限界がある。経済産業省・中小企業庁の3月調査によると価格転嫁率は46%と5割を下回り、全く転嫁できない企業が2割に及ぶ。政府は親企業の「買いたたき」を防ぐ下請法改正などを検討中だ。サプライチェーン(供給網)の利益を中小企業にも適正に配分し、賃上げの継続を促していきたい。
中小企業も事業再生などの自助努力が求められよう。政府の支援も活用し、収益基盤を強化できれば「金利のある世界」への備えになるほか、親企業との価格交渉力も高まるはずだ。
最低賃金の目安は、1都3県と愛知・大阪の大都市圏ブロックなど、全国を3ブロックに分けて決められた。24年度の引き上げ幅はいずれも50円で、地域格差の是正が一歩進んだ。ただ最も高い東京都が時給1163円、最も低い岩手県が943円と、なお格差がある。政府は地域の雇用と賃上げへの貢献度が高い「中堅企業」を財政・税制の両面で支援している。中堅企業が担う役割にも期待したい。
(2024/7/26 05:00)