(2024/9/6 05:00)
物価の影響を反映した「実質賃金」が、7月まで2カ月連続で前年実績を上回った。賃金の上昇率が物価上昇率を上回る状況が定着し、節約志向の消費が喚起されると期待したい。ただ先行きは楽観できない。コメをはじめ食料品などの相次ぐ値上げや、なお円安水準にある為替相場が消費者マインドに影響を及ぼしている。消費喚起を起点とした経済好循環はいつ回り始めるのか、次期総理・総裁に引き継がれる大きな課題になる。
厚生労働省が5日発表した7月の毎月勤労統計調査(速報)によると、実際に受け取る名目賃金(現金給与総額)は前年同月比3・6%増えた。同月の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は同3・2%上昇し、実質賃金は両者の差し引きで同0・4%増となった。33年ぶりの高水準だった2024年春季労使交渉(春闘)や夏季賞与の伸びが寄与したという。
実質賃金は5月まで26カ月連続で前年実績を下回っていた。6、7月にこれが増加に転じ、秋以降も最低賃金の引き上げによる増額が見込まれる。だが、国内総生産(GDP)の過半を占める個人消費を促す効果を期待できるかは予断を許さない。
総務省によると、東京23区では8月にうるち米(コシヒカリを除く)が前年同月比で3割近く値上がりし、帝国データバンクの調査では、9月に全国で1392品目の食料品が値上げされる。政府が8月の月例経済報告で「消費者マインドの動向に留意する必要がある」と警鐘を鳴らしたのが気がかりだ。
次期総理・総裁が、秋に物価高対策を盛り込んだ経済対策を打ち出し、解散総選挙に動くとの観測がある。新内閣は社会保障の持続可能性を担保する議論こそ深めてほしい。家計の将来不安を払拭することは、個人消費の喚起につながるはずだ。
他方、財務省の法人企業統計調査によると、23年度の企業の内部留保(利益剰余金)は前年度比8・2%増で初の600兆円超に達したが、人件費は同3・4%増にとどまっている。膨張した内部留保が今後はさらに賃上げに向かうと期待したい。
(2024/9/6 05:00)