社説/ノーベル平和賞「核廃絶」 「理想と現実」乖離埋める端緒に

(2024/10/14 05:00)

核廃絶という「理想」をいかに「現実」に近づけるか―。2024年のノーベル平和賞が国際社会に発信したメッセージを重く受け止めたい。足元の世界は各地で安全保障が脅かされ、核軍縮どころか拡大が懸念されている。ノーベル委員会はこの危機的状況に警鐘を鳴らした。唯一の戦争被爆国・日本は世界とどう向き合うべきか。米国の核の傘に守られつつも、核なき世界の理想を追うことが日本の責務であると再認識したい。

ノルウェーのノーベル委員会は11日、24年のノーベル平和賞を日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に授与すると発表した。1956年の結成以来、核兵器のない世界の実現を内外で訴え続けてきた。核兵器が二度と使われてはならないことを、被爆者の証言を通じ示されたことが評価された。受賞を喜び、被団協の栄誉をたたえたい。

被団協への授賞は、核兵器をめぐる世界の危機的状況を再認識させる。ロシアによるウクライナへの核の威嚇、中国と北朝鮮による透明性を欠く核戦力増強、事実上の核保有国イスラエルは核開発を進めるイランと全面衝突しかねない局面にある。

日本は、唯一の戦争被爆国だが、核兵器禁止条約に批准していない。米国の核の傘を含む拡大抑止に守られ、「核廃絶」でなく「核抑止」の現実路線を選択している。日米同盟と安全保障の観点からやむを得ない判断だが、理想は追い続けたい。

岸田文雄前政権の「ヒロシマ・アクション・プラン」は、米中に核軍縮の対話を促し、世界の指導者や若者を広島・長崎の被爆地に招くことを推進する。理想と現実の乖離(かいり)を埋める取り組みを積み重ねていきたい。

世界で存在感が高まるグローバルサウスの多くが核兵器禁止条約に批准している点にも注目したい。世界の分断が深まる中、民主主義陣営は新興国との結束を強め、権威主義国の暴走を抑止することも求められる。

早期の核廃絶は現実的ではない。だが、核なき世界の起点が23年の広島サミットや24年のノーベル平和賞であったと振り返られる将来であってほしい。

(2024/10/14 05:00)

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