(2024/11/1 12:00)
iPS細胞(人工多能性幹細胞)から膵臓(すいぞう)の組織を作製し、糖尿病の患者に移植する臨床試験(治験)を京都大学医学部付属病院が2025年に始める。血糖値を下げるインスリンを分泌する膵島(すいとう)細胞が正常に働かない重症の1型糖尿病の患者が対象で、30年代の実用化を目指す。実用化すれば患者の負担軽減が期待でき、将来は毎日のインスリン注射が不要になる可能性がある。
1型糖尿病は免疫の異常などにより、膵島細胞が正常に働かなくなる病気。世界に800万人以上、国内にも10万―14万人の患者がいると推計され、多くの患者が毎日数回、インスリン注射を打って血糖値を安定させている。亡くなった人の膵臓から膵島細胞を取り出して移植する治療法もあるが、国内では年間数例程度しか実績がなく、慢性的な提供者(ドナー)不足が課題だ。治療の新たな選択肢が求められている。
今回の治験は医師主導の第1段階の治験で、25年1月に始まり、同年2月に最初の移植手術を予定する。移植が必要なほど重症の20歳以上65歳未満の1型糖尿病の患者3人が対象で、5年以上前に1型糖尿病と診断され、インスリン依存状態の期間が5年以上継続しているなどの条件がある。計画では、健康な人のiPS細胞から膵島細胞の塊を作製し、数センチメートル四方のシート状にした上で患者の腹部の皮膚の下(皮下)に複数枚、移植する。移植したシート状の膵島細胞から分泌されるインスリンが毛細血管を通して体内に取り込まれ、血糖値を安定させる効果が期待できる。移植後、5年間にわたり経過を観察し安全性を確かめる。
治験の計画は8月23日付で京大の治験審査委員会で承認され、9月2日付で医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届書を提出した。
iPS細胞由来の膵島細胞は、京大iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品工業の共同研究の一環として、CiRAの豊田太郎講師が率いるプロジェクトで開発した。現在、その成果をオリヅルセラピューティクス(神奈川県藤沢市)が引き継ぎ、臨床応用に向けたさらなる開発を進めている。今回の治験で使うシート状の膵島細胞は同社が提供する。
豊田講師は「基礎研究では薬効をみるだけだったが、それに加えて安全性や製造性(細胞の大量培養)もすべて満たさないと、現実的には臨床応用させるのは難しい。(特に)安全性の担保が最後まで大変だった」とこれまでの取り組みを説明する。
治験責任医師を務める京大病院の矢部大介教授は実用化が患者にもたらす効果について「一番近いところでいうと、重症低血糖で救急搬送されるリスクが減る」とし、「将来的に期待することは、インスリンの注射回数、注射量が減る。これはベストケースだが、もうインスリン注射をしないでいいような世界が見えてくると大変うれしいが、そこには長い道のりがあると思っている」と話す。
(2024/11/1 12:00)
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