(2024/11/1 17:50)
中小の支払い能力懸念
政府、経済界、労働組合の代表による「政労使会議」が近く開かれる。衆院選で与野党の多くが訴えた最低賃金の引き上げを議論する予定だ。石破茂政権は「2020年代に時給1500円」との高いハードルを掲げる。賃金の大幅な底上げは消費を喚起し、経済好循環の実現に資する。だが、実現は可能なのか―。中小企業の支払い能力を十分高める施策なしには目標達成はおぼつかない。
24年度の最低賃金(全国加重平均)は前年度より「51円」高い時給1055円。金額、増加幅とも過去最高だった。石破政権の目標を達成するには、25―29年の5年間で年平均「89円」上げる必要がある。24年度実績を大幅に上回る賃上げを5年間も続けられるのか。中小企業による人材確保の防衛的賃上げにも、おのずと限界がある。
気になるデータがある。厚生労働省の調査によると、9月の新規求人数(原数値)が前年同月比で5・9%減少した。採用を手控える動きがみられる。人材は確保したいが、長引く物価高・円安で業績が悪化したことが背景にある。人手不足が業績をさらに悪化させる悪循環により、24年度上期の人手不足関連倒産は過去最多の163件(帝国データバンク調べ)に達した。
主要国に見劣りする日本の最低賃金は、外国人材を招く上でも引き上げが急務だ。だが、中でも中小企業の支払い能力に大きな懸念が残る。最低賃金は違反すれば罰則(罰金)に処され、コンプライアンス(法令順守)違反の企業と認識される厳しいペナルティーもあるだけに、議論は慎重に進める必要がある。
石破政権は政府の「新しい資本主義実現会議」で、中小企業の価格転嫁を促す下請法改正や、中小の生産性向上に資する補助金拡充などを重点施策に掲げた。収益基盤の強化や商慣習見直しに向けた具体的道筋を早期に示す必要がある。中小の賃上げ原資を積み上げ、石破政権の目標にどこまで接近できるのか。「金額ありき」ではない丁寧な議論が求められる。
(2024/11/1 17:50)
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