[ 機械 ]
(2017/6/19 10:30)
サーボプレスはサーボ機構によりスライドモーションの制御が可能なプレス機械であり、その導入が急速に進められている。スライドモーションを制御することにより、塑性加工プロセスの高精度化や生産性の向上のみならず、従来にはない新しい塑性加工プロセスの研究・開発が進められている。ここでは、これからサーボプレスの利用拡大が期待される鍛造加工において、サーボプレスを活用した研究・開発事例を中心に技術動向を概説する。
【大阪大学大学院 工学研究科 准教授 松本 良】
金型材料との組み合わせ、熱間鍛造への活用
熱間鍛造ではバリレス化に代表されるネットシェイプ化(精密鍛造金型だけで複雑形状部品を完成させること)や、材質制御が求められつつある。一般にワークの温度変化が大きく、材料流動や材質が大きく変化するため、スライドモーション制御が及ぼす影響は大きいと考えられる。また金型材料によってもワークの温度変化が大きく左右されるため金型材料にも着目する必要がある。
スライドモーション制御と高熱伝導特性の金型(超硬合金)を活用したダイクエンチング熱間鍛造法が提案されている。図1に示すように熱間鍛造直後にスライドを下死点で数秒間保持し、金型とワークの接触によりワークを急冷することで成形と熱処理を金型内で一工程で行う。超硬合金金型によるダイクエンチング熱間鍛造では5秒以上の下死点保持により、水冷焼き入れと同程度の硬さ値を有するクロム鋼の鍛造品が得られている。
一方、一般的な熱間鍛造では高速で加工することによりワークの金型への熱伝達を抑制し、ワークを高温に保ち加工荷重の低減を図る場合が多い。しかしながら高速鍛造では歪み速度依存性の観点からは加工荷重は高くなる場合もある。また加工中の材料流動制御が困難なため、複雑形状化や形状・寸法の高精度化の実現には低速化と低加工荷重化は重要な技術課題である。
そこで低熱伝導特性の金型(ステライトやサーメット系複合材料)によるワークの熱伝達抑制とスライドの低速化によるワークの歪(ひず)み速度依存性を利用して、加工荷重の低減および材料流動性の向上の両立が試みられている。
以上のようなダイクエンチング熱間鍛造や低速化では、金型は高温のワークとの接触時間が長くなるため大きな熱負荷を受ける。実用化のためには高温強度、耐酸化特性、耐ヒートショック特性に優れる金型材料の開発が不可欠である。
新しいスライドモーション制御
これまでに取り組まれているスライドモーション制御はスライド軸方向と同一方向がほとんどである。スライド軸方向と垂直方向や回転などのモーションを考案することで、新しい塑性加工プロセスが生まれる可能性がある。例えばスライド軸方向まわりの回転(ねじり)モーションを付加した鍛造加工の基礎研究が取り組まれている。
このような新しいスライドモーション制御は多軸工作機械などの他種別の加工プロセスで用いられる加工機械の開発動向がヒントになるかもしれない。
今後の展開への期待
サーボプレスのスライドモーションを制御した塑性加工プロセスの多くは研究・開発段階であり、実製品の製造プロセスへの展開が望まれる。これまでに取り組まれている研究・開発事例を精査し、スライドモーション制御により生じるさまざまな加工現象を体系的に整理することが必要である。またそれらの加工現象について、学術的にメカニズムを解明することも重要であろう。
このような先進的な塑性加工プロセスの実現には、金型技術や潤滑技術との組み合わせが不可避である。例えば強度やじん性を部分的に変化させた傾斜機能金型、トライボロジー特性や熱特性に優れる金型材料や表面コーティング、微細表面凹凸の技術開発が挙げられる。
スライドモーション制御は加工技術のブラックボックス化を可能とし、独自技術の構築につながる。サーボプレスが基軸となり金型、加工材料、潤滑油、コンピューターシミュレーションや周辺機器などの各要素技術と連携して、数多くの革新的技術が生まれることを期待する。
(2016年12月6日 日刊工業新聞 掲載「サーボプレス」特集より)
(2017/6/19 10:30)