[ オピニオン ]
(2015/11/11 05:00)
環太平洋経済連携協定(TPP)の成果は、広範な品目に及ぶ関税撤廃だけではない。中小企業の海外展開を後押しする参加12カ国共通のルールやサービス・投資分野における新たな約束を数多く含んでいる。政府は30項目に及ぶTPPの合意内容を、より丁寧に説明することで貿易自由化の恩恵を中小企業が享受できる環境整備に努めるべきだ。また中小企業の側も、こうしたメリットへの理解を深めたうえで、成長市場に踏み出す弾みとしたい。
とりわけ経済効果が期待されるのは、海外に拠点がなくともサプライチェーンを飛躍的に拡大できる点だ。TPPでは、商品の生産国を特定する「原産地規則」のルールで「完全累積」が実現する。
これにより、生産工程が複数国にまたがっても、TPP参加12カ国内で生産した物品なら「メイド・イン・TPP」とみなされ、関税優遇を受けられる。企業はコア技術を日本に残しつつ、TPP域内の安価な労働力や資源を活用する形で、より効率的な生産体制を描ける。生産拠点や調達元の変更も容易になる。
この他にも、通関手続きを迅速化するルールや、自社が扱う品目の関税分類などを相手国税関に事前に書面で確認できる制度も導入する。いずれも貿易実務に不慣れな中小企業には朗報といえる。
今後の政府の役割は、一見しただけでは読み取れないTPPの意義や活用方法を、より具体的に示すことだ。10月末の自民党の会合では「地方の中小企業が世界とつながる意味合いを簡潔に説明してほしい」「産業空洞化に歯止めをかけ、地域経済活性化につながる点をもっと強調するべきだ」などの声が相次いだ。
全国各地でTPPの説明会が始まっている。だが、通り一遍の説明では理解できないほど内容は広範であり、業種によって関心分野も異なる。政府は11月末までに、新たな市場開拓やイノベーション促進策を盛り込むTPP総合政策大綱を策定する方針だ。ようやく合意に至ったTPPを、中小企業の競争力強化につなげる施策が求められる。
(2015/11/11 05:00)