[ オピニオン ]
(2016/2/19 05:00)
鉄鋼業界の再編の動きが急だ。新日鉄住金が日新製鋼の子会社化を発表し、大阪製鉄は東京鋼鉄の株式公開買い付けを始めた。特に注目すべきは普通鋼電炉業界だ。折しも原料価格の急落で電炉各社の業績は劇的に改善している。将来の需要増が見込みにくい中にあって、この環境変化は業界再編の追い風といえる。
電炉業界は主要製品である建材の市場縮小に歯止めがかからず、再編・淘汰(とうた)の必要性が以前から叫ばれている。昨年6月に経済産業省が産業競争力強化法50条に基づいた調査を検討するなど再編機運も高まっている。
建材の中でも、鉄筋などに使う棒鋼は20社以上が製造している。一方で鉄筋造の建築物は減少しており、厳しい競争に直面している。普通鋼電炉工業会によると、2015年度の鉄筋用小形棒鋼の国内出荷量は14年度の821万トンを大きく下回り、770万トン台まで減少しそうだ。
電炉の上場各社の15年4―12月期決算を見ても、売上高は軒並み2ケタの減少。ところが損益段階ではほとんどが大幅な経常増益を達成し、16年3月期見通しを上方修正するケースもある。これは世界的な資源安に連動して、原料の鉄スクラップが製品単価の下げ幅以上に大きく値下がりしているためだ。
企業再編にはカネがかかる。場合によっては固定資産の除却や事業整理損の計上など業績の大幅な悪化を伴い、財務体質を大きく損なう危険がある。今期の増益は、各社にとってこうした投資の後押しとなろう。さらに新年度以降には、原油安と原子力発電所の再稼働による電力料金の負担軽減も期待できる。これも財務面の不安の解消要因となる。
このタイミングで再編・合理化すれば、東京五輪などに絡む需要が盛り上がった際、一気に設備稼働率を高められよう。原料コストが上昇に転じても、これを吸収して利益を確保できる。逆に一時的な業績改善に安住すれば、いずれ業界全体が苦しむ懸念が大きい。再編に向けた決断の好機が到来しているのではないだろうか。
(2016/2/19 05:00)