[ オピニオン ]
(2016/5/25 05:00)
政府は名目国内総生産(GDP)600兆円に向けた新成長戦略の一つとして「第4次産業革命」を掲げ、2020年に30兆円という市場目標を示している。主役となるのはIoT(モノのインターネット)やビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなど。中でもAIは最近、期待感がバブルのように膨らんでいて危うさすら感じる。実際には技術開発の途上にあることを忘れてはならない。
AIの歴史は約60年前にさかのぼる。これまで二度にわたるブームと冬の時代を経て、現在は第3次AIブームといわれる。技術革新は幾度かの波を繰り返しながら進展するもの。研究者は「前回のブームは夢を語るにとどまっていたが、今回はベンチャーキャピタルなど投資家がいち早く動いている」と違いを評する。
最近は日本将棋連盟公認でプロ棋士とコンピューターソフトが戦う電王戦などの話題も絶えない。棋士がコンピューターに負けるケースは珍しくない。将棋以外でも、米グーグルが開発した囲碁AIの「アルファ碁」が3月に世界トップ棋士と対局し、4勝1敗で勝利して衝撃を与えたことは記憶に新しい。
もちろん、こうした結果だけで「AIが人間を超えた」とはいえない。だが物事を認識したり分類したりする分野で、AIが人間と同等か、時には上回る力を備えてきていることは事実だ。その背景には人の脳の構造をソフトウエア的に模倣した「ディープラーニング(深層学習)」技術と、時間当たりの演算能力の進歩がある。
用途も広がっている。自動走行車やドローン(飛行ロボット)もAIが要だ。この開発で、日本が諸外国に後れをとるわけにはいかない。
米シリコンバレーではAI人材の引き抜き合戦が繰り広げられている。カギとなるのは世界に伍(ご)していく力を持った人材。「日本はトップレベルの研究者がいても絶対数が少ない」という指摘もある。過剰ともいえるブームに浮かれず、世界と戦うAI人材の育成を怠らないようにしたい。
(2016/5/25 05:00)