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(2016/9/7 05:00)
■徹底した品質検査“ウリ”に/「小規模」強みに変え生き残り
2014年にソニーのパソコン部門が独立したVAIO(長野県安曇野市、大田義実社長、0263・87・0810)が、設立3年目に入った。日本のみならず、海外でも知られるブランドだが、規模は世界大手と比較できないほど小さい。規模がモノを言うパソコン業界で、同社は設立2年目の16年5月期に営業損益の黒字化を達成した。小規模ならではの生き残り術がある。(梶原洵子)
パソコンのように市場成熟が進むと、製品の差別化が難しくなり、大規模化で調達コストを抑えるための競争が広がる。これが同業界で統合話が出てくる理由だ。これに対し、大田社長は、「世界シェアが低いと部品価格は高くなるが、商品・サービスなどのつくり込みでカバーできる」と言い切る。いかに消費者のニーズに合致した商品を出すかはもちろん、営業や生産戦略の変化による貢献も大きい。
設立後、同社が実施したことの一つが、自前の営業部や技術営業部隊を持つことだった。設計・製造から販売・サポートまで一貫した体制を構築し、顧客の声を商品企画に反映しやすくした。その上で、機種ごとに事業計画を立て、在庫や限界利益、返品率などの指標を毎月管理し、設計リーダーが売り上げ責任まで持つ。「社員一人ひとりの意識改革になった」(大田社長)。企業規模が小さいからこそ、できたことかもしれない。
生産面では、長野県安曇野市の本社工場と海外を使い分け、コストと品質をコントロールする。同社唯一の生産拠点である本社工場で生産しているパソコンは、旗艦モデル「Z」のみ。このほか、主力の「S」シリーズや、発売したばかりのカジュアルモデル「C15」は、海外で委託生産している。ただ、海外生産品を日本の顧客に直接提供するのではなく、消費地に近い安曇野で徹底的に品質をチェックする。
同社は、この品質検査を「安曇野フィニッシュ」として“ウリ”にしている。ブランド力の源泉であるデザインやビジネスに適した使用感が実現できているかどうかのチェックのほか、ディスプレー接合部の隙間なども一つひとつ測定し、クリック感も指先の感覚できめ細かく確かめる。
また、海外での事業展開においても、自前にこだわらない。米国では自社製品を販売しているが、ブラジルと今後進出するアルゼンチンやチリ、ウルグアイの3カ国ではライセンスビジネスを行う。VAIOから許諾を受けた現地企業が製造や販売を行うことで、最小限の投資でタイムリーに商品を供給する。
一方、安曇野の本社工場では、新しいビジネスを広げる。かつて生産していたソニーのイヌ型ロボット「AIBO」などのノウハウを生かした電化製品の受託生産で、「さまざまなジャンルのプロジェクトが進行している」(同)。例えば、富士ソフトのコミュニケーションロボット「パルミー」も同工場の生まれだ。17年5月期には受託ビジネスでの顧客との関係をもとに新事業を立ち上げ、パソコンだけに頼らない新たな一歩を踏み出す。
(2016/9/7 05:00)