[ オピニオン ]
(2017/1/4 05:00)
「年の初めのためしとて 終わりなき世のめでたさよ」―。正月休みをぐうたらに、のんびりと過ごした。おせちを肴(さかな)に飲み、惰眠をむさぼった。
夢を見た。初夢ではなく昼寝の時だったかも知れない。遅ればせながら、年末にアニメ映画『この世界の片隅に』を見たせいだろう。原作はこうの史代さんの同名コミック。
舞台は第2次大戦下の広島と呉。主人公は18歳で呉に嫁いだすず。東洋一の呉軍港を爆撃する米軍機に、大切な人やモノを奪われながらも、こつこつと前向きに生きる姿を描いている。全編にホンワカとしたムードが漂い、戦争を忘れる。それが哀しさを一層増幅させる。
戦争に大義などない。主義主張も、宗教も、文明も繁栄も、人類の生存が優先する。すずは「うちらはその(戦争の)記憶の器としてこの世界にあり続けるしかないんですよね」と空を見上げる。戦争を知る世代が、今年も一人また一人といなくなる。政府は自衛隊の海外活動に“駆けつけ警護”を付与した。新しい世代の戦争証人をつくろうとでもしているのか。
アニメ『この世界の片隅に』はじわりと観客動員数を伸ばしている。『君の名は。』には及ばないが、世界15カ国以上での上映が決まっているという。
(2017/1/4 05:00)