[ オピニオン ]
(2017/4/24 05:00)
「“たらい回し”にされたおかげで、思わぬ形で東京観光を楽しんだ」。10年以上愛用したドイツ製マグカップが壊れ、同じものを探しに上京した父が語った。
まず向かったのは東京駅近くの百貨店。空振りだったが、品ぞろえ豊富という店員の助言を得て日本橋の百貨店へ。ここも在庫はなかったが、店員が、他の店舗に次々と電話をかけ、池袋の百貨店にあることを発見してくれた。結局、一日がかりで目当てのマグカップを手に入れた。
なんでも、このメーカーの二つの工場の一つが閉鎖になり、出荷に混乱が生じているのだとか。モノにまつわるエピソードが好きなだけあって、仕入れた知識を自慢げに披露する。
ネット通販で探ってみると「在庫あり」。しかし「次はネットで買えば」と助言しようとは思わない。店員とのコミュニケーション、お気に入りの製品に対する新知識、見付けた時の達成感―。そこにはワンクリックでは得られない付加価値がある。
百貨店にとって、丁寧な接客は特別なことではないだろう。しかしネット通販が台頭する中、かえって輝きを増しているように思える。苦境にあえぐ百貨店業界だが、体験を売るという強みを発揮し、輝きを取り戻してほしい。
(2017/4/24 05:00)