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【電子版】中国イノベーション事情(24)「イノベーション国家」を目指す中国

(2017/12/20 05:00)

  • 「中国のシリコンバレー」と呼ばれる北京中関村にあるハイテク企業のビル群(筆者撮影)

イノベーションが成長の源泉となるか

1978年の「改革・開放」以降の高度成長で世界第2位の経済大国に躍進を遂げた中国は、2006年に「イノベーション国家」志向を提唱し、イノベーションによる発展に注力している。20年までにGDPに占める研究・開発(R&D)費用の割合を2.5%以上、また特許の登録件数や学術論文の被引用回数を世界5位以内にし、経済成長に対する技術進歩の寄与率を60%以上にすると、イノベーション国家の実現の数値目標を打ち出した【表】。さらに、17年10月に北京で行われた中国共産党の第19回党大会でも、イノベーション国家志向が強調された。

中国ではイノベーションを求める重要性への認識が高まっており、これまでは国主導の研究費増加や特許登録件数の増加など、表にある数値目標の実現に力を入れてきた。近年は民間の活力が重要視され、本連載でも紹介してみたが、地域の先行モデルから、新しいビジネスモデルの続出、民間の「双創」(「大衆創業・万衆創新」の略語、大衆による起業および万人によるイノベーションの意味)ブームまで、さまざまな進展が見られる。

17年6月に米コーネル大学、欧州経営大学院(INSEAD)と世界知的所有権機関(WIPO)はグローバル・イノベーション・インデックス2017(The Global Innovation Index)を発表した。この指数は制度、人的資本、研究、インフラ、市場の洗練度、ビジネスの洗練度、創造的な生産などの項目を測定し、一国のイノベーション度をランク化したものである。中国は16年の25位(中所得国として初のトップ25ランクイン)から22位に順位を上げ、順位の上昇は中国のイノベーション活動の向上の成果といえる。

一方で、中国がイノベーション国家を目指し、イノベーションが新たな成長の源泉になるためには、今後多くの課題を克服する必要があるが、ここでは特に4点を挙げたい。まず、基礎研究の強化である。中国のこれまでの工業化では、「以市場換技術」(中国の市場をオープンにし、その代わりに海外の先進技術を入手する)が中心だった。技術のキャッチアップはある程度実現できたが、コア技術など海外依存は依然として高い。R&D費用のなかで、基礎研究への支出割合は10%にとどまっている。基礎研究への資金投入の拡充とともに、水平的な産官学の連携が求められている。

  • 「中国の秋葉原」と呼ばれ、ハードウエア系のイノベーション活動が活発な深圳・華強北エリア(筆者撮影)

次に、普遍性のあるノウハウの構築である。本連載でイノベーションの先行地域として、北京や深圳、杭州の発展を取り上げた。地域によってイノベーションの“土壌”が違うため、北京などのモデルが自然に中国全土に広がるとは考えにくい。これらの地域から普遍性のあるノウハウや成功体験を抽出し、さらに他地域に広げる努力が重要である。

3番目は、企業家精神の育成である。起業家精神が提唱される中国では、そうした精神を育て、起業活動が活発になっている。起業する人の意識や動機も、第一代の金銭志向から理想追求志向に変わりつつある。事業を起こして自らが豊かになる「起業家」で終わるのではなく、より高い意識と強い行動力をもって、経済社会のイノベーション向上に貢献する「企業家」への進化が期待される。

最後に、自由な市場環境の保障である。「イノベーション国家」の実現には、今後民間の活力を一層引き出すことが最も必要不可欠である。元北京大学光華管理学院院長の張維迎教授が「イノベーションの根底には自由があり、オープンで自由な市場環境をつくる必要がある」と指摘したように、オープンで自由な市場環境は中国が直面している重要な課題と思われる。

(おわり)

【著者プロフィール】

富士通総研 経済研究所 上級研究員 

趙瑋琳(チョウ・イーリン)

79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。

(2017/12/20 05:00)

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