[ オピニオン ]
(2018/1/17 05:00)
「われ入りて 鍋作りする爐にあるを 夕日と思ふ ひろきかな屋に」。鍋を作る炉の中で夕日と見まごうばかりの炎が燃え上がる―。1933年に富山県高岡市に伝わる工芸「高岡銅器」の鋳造現場を訪れた与謝野晶子は、火の迫力をこう詠んだ。
高岡銅器の炉に最初の火がともったのは江戸時代初期。加賀藩が高岡築城の際、7人の鋳物師を招いたことに始まる。ただ400年以上の歴史を持つその伝統は、風前のともしびだという。
主力製品である花器や茶道具は需要が縮減し、職人は高齢化が進む。高岡市で銅の花瓶などの工房を経営する能作克治さんは「後継者がどんどんいなくなる」と嘆く。培った鋳造技術を生かしてスズ製品にも進出し、高い成長を遂げた。
そうした転身ができる現場ばかりではない。「あと10年もすれば、いろいろな技術が抜けていく」と能作さん。危機感に背中を押され、子会社「能作プレステージ」を設立する。スマートフォンのケースなど新分野の銅器を企画・開発する。生産は地域の職人に委託し、技術を伝承させる試みだ。
受け継いだ火を絶やすまいとするその挑戦は、事業承継で悩むほかの伝統工芸産業にも、行く手を照らす明かりとなるだろう。
(2018/1/17 05:00)