[ オピニオン ]
(2018/3/12 05:00)
「3月だけ取材に来るな」―。福島県飯舘村の農家、菅野宗夫さんの一言に圧倒された。東日本大震災前までは牛舎だった建物を「我が家」と言って招き入れ、にこやかに応対してくれたが、そこだけ急に強い口調になった。
この1年間、何度か青森や宮城の被災地を取材した―と言い訳する気にはなれなかった。原子力発電所事故による避難指示解除は2017年3月末。間もなく1年になるが住民は戻らず、集落は静寂に包まれている。実際に暮らす人の訴えに重みがあった。
明治初期の東北地方を旅した英国人女性を描いた小説『ジャーニー・ボーイ』(高橋克彦著、朝日文庫)に、裸同然の粗末な身なりの人が暮らす村が登場する。同行する日本人通訳や警護役は案内するかどうか迷う。
通訳らは「政府がこうした地域を見捨てている」「それが日本の真実というやつだ」と語り合う。英国人女性は急速に近代化する横浜や東京を「見せ掛け」と切り捨て、「本当の心や暮らしが知りたい」と貧しい村を見たがる。
関東地方の高校生が飯舘を訪ねようとすると、放射能を心配した親が制止したという。「何度も来ないと風評も分からない」と菅野さん。3月の節目を越えても復興の努力は続く。
(2018/3/12 05:00)