(2021/3/8 05:00)
東日本大震災から10年。自然災害の頻発・激甚化で中小企業では事業継続計画(BCP)などの備えが存続を左右する。経営戦略として優先度の高い課題から対策を急ぎたい。
政府の地震本部地震調査委員会の評価では、今後30年以内に南海トラフでマグニチュード8―9クラスの地震が起こる確率は70―80%。だが震災の教訓が生かされているとは言い難い。BCP策定済みの中小企業は13・6%(帝国データバンク2020年5月調査)で伸び悩む。
策定済みの企業でも取引先や親会社からのサプライチェーン強化の要請が動機になっているケースが少なくない。『見せるBCP』ではなく、社員を守る『生きたBCP』にしたい。
中小企業の先進事例もある。蒲鉾製造販売業の白謙蒲鉾店(宮城県石巻市)は、主力工場が6メートルの津波で浸水被害を受けたのを契機にBCPを策定した。現在は7店舗と2工場を合わせ、年間100回を超す演習を実施し、社員の高いモチベーションを維持している。
2階建ての主力工場には、日本政策投資銀行のBCM格付融資を利用し、避難場所となる4階建ての管理棟を増築。揺れが1分以上続くと即時避難を徹底している。マグニチュード8クラスの地震が発生し、津波被害の危険性が高いことによる。
コロナ禍で地震や豪雨が起きる「複合災害」で工場を避難所として利用する際は、見学者用の施設をゾーニングし、発熱者などの分離収容に使用する。
BCPは被災状況に応じて誰が何をやるか、初動対応を決めておくだけでも効果がある。さらに同業者との協力関係が減災力を格段に高める。津波で処理施設が壊滅的な被害を受けたリサイクル業のサイコー(仙台市宮城野区)は、被災時に地域の同業者と回収場所や処分場を相互利用する関係を結んでいる。
防災士の資格を持った専門人材の育成も有効だ。未知の感染症禍で起きる「複合災害」では、最新情報を社員に迅速・的確に周知できる司令塔役が帰趨(きすう)を握る。不断の努力で社員の生命と雇用を守り抜こう。
(2021/3/8 05:00)