産業春秋／先人の命を守る知恵

気象災害にまつわることわざが各地に伝わっている。科学的根拠は不明確でも、先人が犠牲を払って残してくれた「命を守る知恵」は現代に通じるものもありそうだ。

『蛇抜（じゃぬ）けの前には、きな臭い匂いがする』は長野県南木曽町に伝わる。土石流をさす蛇抜けの前には「落ち葉が腐敗したような匂いがする」と町の防災担当者。２０１４年の豪雨災害でも異様な臭気が立ちこめた。

埼玉県と東京都にまたがる荒川の流域には『蛙（かえる）がおしっこをしても荒川があふれる』ということわざがある。わずかな雨でも油断は禁物という教訓だ。荒川は「荒ぶる川」と呼ばれ、洪水が頻発してきた。

最近の降水量は、牛馬のそれに匹敵しよう。国は洪水調節機能の強化を進めているが、雨量の急増に追いつかない。１９年の台風１９号では、堤内が満水に近い状態になり、流域の自治体は避難指示を発出した。

気象予報の専門家は「スーパーコンピューターでも過去に起きたことがない現象を予測するのは難しい」と話す。９月１日は「防災の日」。南木曽小学校では台風シーズンになると「砂防見学」を実施し、蛇抜けから命を守る知恵を伝承している。五感を研ぎ澄まし「自助」の力を鍛えておきたい。