社説/賃上げ起点の好循環(上)価格転嫁進め中小と共存共栄を

(2023/1/19 05:00)

経団連は2023年春闘における経営側の交渉指針をまとめ、全従業員の7割近くを占める中小企業との取引適正化の重要性も盛り込んだ。産業界で賃上げ機運を醸成するには、大手企業に加えて中小企業の対応が欠かせない。中小企業がコスト上昇分を取引価格に上乗せする価格転嫁を円滑化し、中小企業の賃上げ原資を確保したい。経済好循環の実現に向け大手企業の積極的な対応に期待したい。

経団連は交渉指針で、企業の社会的責務として賃上げのモメンタム(勢い)の維持・拡大に努めるよう呼びかていくと明記した。すでに積極的な賃上げ方針を示している大手企業も少なくなく、賃上げの機運は高まりつつある。ただ、円安効果もあって業績が過去最高を更新する大手企業が目立つ一方、中小企業は無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の本格返済を控えるなど、台所事情の先行きを不安視する企業が少なくない。

懸案の価格転嫁の状況について、経済産業省・中小企業庁が22年12月に公表した「価格交渉促進月間(22年9月)フォローアップ調査」によると、直近6カ月間のコスト上昇分のうち「9割、8割、7割」を価格転嫁できた企業が18・2%、「10割」が17・4%あったものの、「全く価格転嫁できていない」企業も20・2%に達した。

発注側の経営者が下請け企業との取引適正化を宣言する「パートナーシップ構築宣言」の登録企業は1万8000社を超えた半面、公正取引委員会は22年12月に価格交渉の場を設けなかったなどの13企業・団体名を公表し、是正を促している。経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体は異例の連名で、パートナーシップ構築宣言への参画と同時に実効性の向上を会員企業に求めている。同宣言の意義を理解し、取引適正化を推進することが求められる。

東京商工リサーチが22年10月に公表した調査によると、中小企業の81・2%が23年度に賃上げを「実施する」と回答していた。この方針の実現に向け、受発注間で適正に利益を分かち合う共存共栄の関係を築きたい。

(2023/1/19 05:00)

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