社説/植田日銀総裁(上)YCC修正時期が当面の焦点に

(2023/4/7 05:00)

日銀の黒田東彦総裁が8日に任期満了を迎え、植田和男氏(経済学者・元日銀審議委員)が9日に新総裁に就任する。限界を迎えている“黒田日銀”の異次元金融緩和に終止符を打つタイミングを見極める重責を担う。当面の焦点はイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の修正時期。異次元緩和を継続しつつも、債券市場での副作用を早期に是正し、金融正常化への歩みを進めたい。

2013年に導入された異次元金融緩和は円安と株価押し上げの成果を上げた。だがアベノミクスのうち構造改革が進まず、金融緩和に過度に依存した“1本足打法”の限界を浮き彫りにした。日銀による国債の大量購入は財政規律を緩め、債券市場では10年物国債より年限が短い国債の方が利回りが高い歪みなどを招いていた。円安は“悪い物価上昇”も誘発した。

新総裁となる植田氏は2月の国会聴取で、当面は現行の異次元金融緩和を継続する意向を示している。23年春闘で意欲的な賃上げが相次ぐものの、需給ギャップが22年10―12月期まで11四半期連続でマイナスであることを勘案すれば、金融緩和の継続は適切な判断である。

ただ黒田総裁は22年12月に副作用が問題視されていたYCCを修正し、10年債利回りの許容変動幅の上限を0・25%から0・5%に引き上げている。この延長線として、“植田日銀”がさらに長期金利を引き上げても異次元緩和の枠組みは維持される形になる。米欧の金融不安を背景に長期金利は0・5%を下回っており、YCCの設定を修正しても急激に金利が上昇する可能性は低いとみられる。日銀による4月ないし6月の金融政策決定会合を注視したい。

金融緩和だけではデフレから脱却できない。政府は構造改革を推進し、1%を割る潜在成長率を引き上げる必要がある。持続可能な賃上げを促す人的投資やイノベーションを進め、企業と家庭のデフレマインドを解消したい。産業界も、23年春闘での積極的な賃上げを24年も継続し、金融正常化に向けた環境整備を後押ししてもらいたい。

(2023/4/7 05:00)

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