産業春秋／クラシックホテル、時を超えて

インバウンド（訪日外国人）需要の回復を背に、都心ではホテルの新規開業・建設が相次ぐ。外資系チェーンの攻勢や、滞在目的に応じたブランド展開など企業戦略は多様化。宿泊料金も上昇傾向にある。

そんな折、川端康成や三島由紀夫といった文豪たちに愛された「山の上ホテル」（東京都千代田区）が２０２４年２月に全館休業すると発表した。竣工から８６年を迎える建物の老朽化への対応を検討するという。

日本のホテル黎明（れいめい）期に創業したクラシックホテルは、創業者の想いを投影した重厚な建築様式や格式あるたたずまいが魅力の一つ。しかし時の流れにはあらがえず、耐震工事や大規模改修が相次ぐ。

ジョン・レノンも訪れた富士屋ホテル（神奈川県箱根町）は約２年の耐震工事を経て２０年夏に営業を再開。万平ホテル（長野県軽井沢町）は２４年のリニューアルオープンに向け長期休館中だ。気がかりなのは、山の上ホテルの休館期間は「当面の間」。営業再開の時期が不明だ。

半世紀前の１２月、両親はここで挙式した。久しぶりに訪れようかと思い立ったが、同ホテルによると「問い合わせが多く電話がつながりにくい状況」という人気ぶり。早期の再開に期待したい。