室蘭工業大学、植物機能性成分を評価 「食」通じ産学・地域連携

(2024/1/19 12:00)

食産業の活性化は全国の地方大学の産学・地域連携の重要テーマの一つだ。室蘭工業大学のプロジェクトでは植物機能性成分の評価に、量子ドットイメージングや人工知能(AI)など最先端の技術を活用する。一方でアイヌ民族伝承の植物の採取・栽培といった土着的な視点も並行させる。これら食にまつわる情報や物語で、販売者や消費者にもまたがるウェルビーイング(心身の幸福)を向上させたいと考えている。

  • 食品成分の機能性評価で食産業を後押しする

室蘭工業大学のこの産学・地域連携は、食を通して心身と社会を豊かにする研究開発・社会プロジェクトといえる。テーマの一つは健康機能評価の研究だ。これは1次産品の低価格競争から脱し、高付加価値の作物や加工製品を生み出すものとして、取り組む大学は全国的に多い。室蘭工大では特に、近年のノーベル賞受賞で注目されるような最先端技術を多数、活用している点が目を引く。

その一つは量子ドットイメージング法だ。アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβ(ベータ)やタウたんぱく質の蓄積に対して、どの成分がどの程度、抑えるかをを定量的に測るために活用する。 

有効な阻害物質を見つけ出し、その効力を数値で表す上で、多数の候補成分を効率よく調べられる微量ハイスループット評価システムを独自に開発した。量子ドットイメージング関連だけですでに20編以上の論文発表や、複数の特許出願・取得を実現している。

  • 有用植物の栽培法開発も手がける(室蘭工大提供)

また神経細胞がさまざまな形に変異し、ネットワークとして機能しなくなる病変に対しては、AIを使って画像解析を行う。細胞形態の変化を自動で定量化することにより、優れた素材の探索が効率的に行える。

カネカとの共同研究では、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来のオルガノイド(生体外3次元細胞組織)を使った、たんぱく質変性疾患関連の評価技術を開発した。iPS細胞の培養上清を使ったスクリーニングシステムも確立している。こういった評価法を武器に、地元植物のエキスから高い活性を持つ成分を絞り込んでいる。

一方、野生のアイヌ伝承有用植物の約200種をはじめ、地域の食材の掘り起こしを推進。認知症に効果が期待できる成分を含むものなど、自生でなく栽培へ転換するための圃場(ほじょう)試験や調理法の検討を、地域住民や料理人など多様な人々の連携によって進めている。

リーダーの徳楽清孝同大教授は「生産者のやりがいから食べる人の幸せまで、経済性とウェルビーイングの両立を図りたい」と強調する。そのため自然科学だけでなく、人文・社会科学の視点も重視している。

機能性成分やアイヌの逸話といった情報を共有することは、食流通のコミュニティー強化の期待がある。さらに食に関わる文化や歴史、その語りといった要素を取り込み、研究でも関係する人々でも対象の範囲を広げようとしている。

(2024/1/19 12:00)

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