産業春秋／価格転嫁を促す「想像力」

ネット通販で古本を購入した。３００円足らずの買い物だったが、注文直後に無料で対応するとの連絡がきた。検品過程で商品不備が判明したのが理由で配送料ととも返金された。

届いた商品は新品同様。「不備」を探すと、わずか１カ所、前の持ち主が記した傍線がある程度。良心的な対応と感じる一方、この業者にとって余計なコストが生じただけの取引になったことを済まなく思った。

ネットで商品を購入する際、販売価格と送料を合算しどのサイトが最も安価か比較するのは当たり前になった。送料無料表示は購買意欲を誘う一方、物流コストを意識できなくなる。

２０２４年春季労使交渉（春闘）は賃上げの流れが社会全体に波及するかが焦点となる。中小企業が従業員への賃上げに振り向ける原資を安定的に確保するには、原材料やエネルギー、物流コストなどを納入価格に適正に上乗せし、収益改善を伴うことが欠かせない。

モノやサービスには適正価格がある。そのことに思いをめぐらせ、価格転嫁に対するネガティブな意識や染みついたデフレマインドを払拭したい。私たちが手にするモノに携わる人に思いをめぐらせる想像力も、一つのきっかけになればいい。