産業春秋／「不適切」があぶりだす「いま」

阿部サダヲさん演じる主人公が１９８６年から現代にタイムスリップするコメディードラマ「不適切にもほどがある！」。コンプライアンス意識のかけらもない「昭和」を笑いつつ、人々が心の奥底に秘めているであろう違和感をあぶり出すところに妙がある。

表層的な自重がもたらす息苦しさや、本音が見えにくくなった令和の社会。働き方改革や多様性にとどまらず、会員制交流サイト（ＳＮＳ）との向き合い方にも一石を投じる。

ＬＩＮＥの「作法」に戸惑う主人公の姿は、チャットをめぐるビジネスマナーに日々、釈然としないものを感じるわが身に突き刺さる。チャットは職場でのコミュニケーション手段としてもすっかり定着したが、応答マークで真意が伝わったのか不安になる。

直接、話した方が手っ取り早いと通話マークを押してしまった時の相手の戸惑い、グループ間で延々続く「承知しました」メッセージに気がめいることもある。

常識や価値観は時代によってつくられる。技術革新の進展にも背中を押され、変化のスピードは今後一層増すだろう。将来世代に令和の「いま」が「あり得ない」と笑いをもって受け止められる日は、そう遠くないかもしれない。