岐阜大学、AIの認識性能向上 対象物ごとの学習不要に

(2024/3/1 12:00)

人工知能(AI)は社会を大きく変え始めている。さまざまな工業製品やサービスにも使われ、研究開発や生産の分野でも、AI抜きでは他に後れを取りかねない状況だ。岐阜大学はAIを研究に応用したいという研究者や学生を支援し、学外とも連携する組織「人工知能研究推進センター」を設立した。その中核が工学部の加藤邦人教授だ。AIの深層学習(ディープラーニング、DL)を研究している。

  • 深層学習のため多数のコンピューターを駆使する

ディープラーニング(DL)は、人間が学習する仕組みを模したニューラルコンピューターを何層にも組み合わせて認識の精度を高める。加藤邦人教授は「どんなモデル構造にし、どう学習データを与えれば認識性能が上がるのか」を主なテーマとする。

加藤教授は学部生時代から一貫してコンピューターでの画像処理(コンピュータービジョン)を専門とする。長年、検知対象の物質を画像として認識する技術の進化に取り組んできた。

しかし約10年前に深層学習の技術が出てきた。「過去20年の研究を全て捨てた」(加藤教授)と振り返る。深層学習はAI自らが学習し自らルールをつくる。「人間が細部まで全て決める従来の画像認識では絶対勝てないと確信した」(同)。

加藤研究室が研究する深層学習のモデル構造のあり方や学習データの与え方は、世界中の開発者や研究者が日々新たなアイデアを交流サイト(SNS)のX(旧ツイッター)などで発表している。学会発表や専門誌への論文掲載では変化のスピードに追いつかないからだ。評価や議論もオンライン上。約20人の研究室メンバー全員で分担しても拾いきれないほど情報量は膨大だ。

そんな中、加藤教授に再び衝撃を与えたのが生成AIの登場だ。特に「22年のチャットGPTの登場は大きい」と話す。「以前は赤ちゃんのようなもの。生成AIは言語が理解でき言葉で説明ができるようになった。画像を多数見せる必要がなくなった」(同)と解説。「過去10年の研究をまた捨てることになった」と苦笑する。

そして画像と言語で何ができるのかに研究の軸足を移し、成果も出始めた。一例が、2枚の画像だけで品質検査ができる汎用外観検査AIの開発だ。加藤教授が世界初とするこのAIは「傷」や「へこみ」などの概念を理解でき、従来の対象物ごとの学習が不要。あたかもベテラン検査員のようだ。外観検査AI導入のコストや時間を大幅に削減できる。

DLの研究は、膨大なデータを超高速で計算するため高性能の画像処理半導体(GPU)を搭載したコンピューターが多数必要だ。「東海地区では最大規模」(同)という計算体制の予算確保には常に頭を悩ませる。それでも「学生たちと先端技術の激変を体験し、楽しんでいる」(同)と笑顔。今後は、膨大な予算と体制を持つ米国大手IT企業とは一線を画し、検査用などに特化したAIを用途を含め開発する。

(2024/3/1 12:00)

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