(2024/3/1 12:00)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大型基幹ロケット「H3」試験機2号機が打ち上げに成功した。H3試験機1号機の失敗から約1年がたち、原因究明や対策を講じて新たな宇宙輸送手段の獲得につながった。H3の開発・主製造を担当したのが三菱重工業で、従来機「H2A」をはじめとしたロケットや探査機などの開発に長年携わってきた。今後も日本の宇宙開発に必要な要素技術の確立に貢献すると期待される。
H3試験機2号機は2月17日に種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)から打ち上げられ、大型衛星のダミー1機と小型衛星2機が宇宙空間に届けられた。JAXAのライブ配信では約18万人が視聴し、日本のみならず世界中の人たちが打ち上げを見守った。三菱重工業の新津真行H3プロジェクトマネージャーは「改善が必要な部分はまだあると思う。安定して打ち上げられるようにしていきたい」と振り返る。
H3試験機1号機は2段エンジンのトラブルで指令破壊信号を送り、打ち上げに失敗した。文部科学省を中心とした安全有識者会合での議論が続き、詳細な原因を三つに絞り込んですべてに対策を講じた。1号機の失敗から約1年後という早さで2号機の打ち上げが決定し、衛星を宇宙に届けられた。H3の技術獲得によって日本の宇宙輸送手段が増えて、宇宙ビジネスの活性化につながる。
H3の特徴の一つに自動車などに使われる民生部品を使っている点が挙げられる。一般的に宇宙機には宇宙用部品と呼ばれる極域環境でも耐性のある部品が使われている。厳しい検査を通過した一品が搭載されているが、部品の検査に時間がかかり高額だった。H3の打ち上げ費用は従来のH2Aの半額となる約50億円を目指しており、部品の低コスト化も課題の一つとなっていた。そこで民生部品を使うことでコストカットを目指した。同社の江口雅之防衛・宇宙セグメント長は「H3の10―15号機を打ち上げる時にはJAXAから打ち上げ事業を移管し、国際競争力を高めたい」と意気込む。
三菱重工業は従来機H2Aの主製造と開発、打ち上げ事業を担っており、従来機H2Aの前機となる大型基幹ロケット「H2」からの技術的なノウハウを持つ。新津プロマネは「投入精度や信頼性はH2から引き継いだ技術が大半を占める。H3では約束した日には必ず届けるサービスを提供したい」と強調した。
日本には数多くの宇宙に関する技術開発を進める大学や企業などが多く存在する中で、求められているものの一つが宇宙での技術実証の機会だ。米国を中心にロケットの打ち上げ回数は増えているがそれでも足りないのが現状であり、安全保障の面で国内で安価に打ち上げできれば宇宙分野の事業拡大に貢献できる。こうした中でH3が打ち上げに成功したことで今後の打ち上げ回数の増加するとみられ、日本の宇宙開発の促進につながると期待できる。
(2024/3/1 12:00)
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