商工中金、民営化で業務拡大 中小支援を強化

(2024/4/18 17:00)

商工中金の民営化が最終段階に入った。政府は保有する46・5%の全株式を2024年度末までに売却し、25年4月にも民営化する見通しだ。これにより業務範囲の制限が緩和されることになり、商工中金はITサービスの販売や、経営人材のマッチングといった中小企業向け支援を強化する方針。全国に置く支店網を生かし、地域に根付く中小の期待に応えられるコンテンツづくりと支援メニューの提供が求められる。

「全てを中小企業のために経営する」。商工中金の民営化後の経営方針について、関根正裕社長はこう言い切る。同社の貸出先の約7万4000社のうち、9割を中小が占める。政府による株式の売却先も中小や中小関連の団体に限られており、「中小による中小のための金融機関」との色合いを強める。

政府は24年7月から政府保有株式の入札を受け付け、24年度末までに10億1600万株の全株式売却を完了する予定だ。入札予定価格は公表していない。

民営化による最大の変化は、業務範囲の拡大だ。これまでは民業圧迫の懸念から人材派遣やITシステム販売などの業務が制限されていた。中小が直面するデジタル変革(DX)や事業承継といった課題への対応は急務で、民営化後に中小企業向けサービスを拡充する方針。これらの課題を抱える企業に経営人材を紹介する人材マッチング子会社を新設するほか、顧客企業の受発注や資金管理、入出金管理を担うITサービスも検討している。

また、事業再生を目指す企業への出資上限が銀行と同じ100%となり、経営再建を主導できるようになる。ただ一方で民間金融機関との競争を妨げないように配慮する規定は改正商工中金法に残る。危機時のセーフティーネットとしての役割を担いつつ、商工中金の事業拡大や収益向上のためには、地域に根差し独自のノウハウを持つ地域金融機関などとの連携強化も必要だ。すでに事業再生のほか、持続可能な社会の実現を支援するサステナブルファイナンスの分野で、地域金融機関との連携実績がある。

商工中金は16年に大規模な不正融資が発覚し、民営化の是非を問われて以来、中小向けサービスを重視、組織改革を断行してきた。4月にはマーケティング部を新設し、ニーズをくんだサービスを企画できる体制を整えた。脱炭素化や自動車の電動化などへの対応を支援する部署も設置した。組織体制のあり方について関根社長は「スピード感を持って顧客ニーズに対応することが重要だ」と話す。

一方、経済環境の変化や大規模災害時の資金繰りなど、危機対応業務は変わらず取り組む。関根社長は「変わったら商工中金の存在意義が問われる」と存続の姿勢を示した。

インタビュー

顧客ニーズに最適解

社長・関根正裕氏

民営化で商工中金が果たすべき役割はどう変わるのか。関根正裕社長に聞いた。(永原尚大)

ー民営化で何が変わりますか。

「一番大きいことは業務の制限緩和だ。例えば銀行は地域貢献のためであれば子会社を作れるが、商工中金はそれができなかった。ニーズに応えきれない部分があり、真の意味で中小企業向け金融機関になれない点があった。これを変えるには政府に株を売却してもらう必要があった」

ーニーズへの対応とは。

「中小の一番の課題は人手不足で、そのためのソリューションを提供していきたい。事業承継やデジタル化を進めるにも経営人材が必要だ。紹介するような仕組みを作りたい。経営人材の育成も含め、子会社を作り新しいサービスを展開する。(顧客企業の)社員のモチベーションを高める支援も評判が良い。人材分野で幅広く展開したい」

ーデジタル分野も手がけられるようになります。

「デジタルのビジネス基盤事業を検討している。(顧客企業の)受発注業務や資金管理、入出金管理をSaaS(サービスとしてのソフトウエア)として提供できないかを構想している。金融機能も加えれば使い勝手が良いサービスとなるだろう。フィンテック(金融とITの融合)事業や、他社と共同出資会社設立などもできるようになり、経営の自由度が広がる」

ー多様化する中小企業のニーズをどう把握しますか。

「本部にマーケティング部を新設した。(ニーズ起点で事業を考える)マーケットインの発想で商売を考えないといけない。地方から寄せられる情報や産業構造、地域特性といった情報を集め、それぞれの地域に最適なソリューションを提供していく」

ー資金繰り支援などセーフティーネットとしての役割は。

「危機対応業務は法律で責務として盛り込まれた。やるかやらないか、ではなく、やる。危機対応は商工中金の使命であり、DNAとして組み込まれている。変わったら商工中金の存在意義が問われる」

(2024/4/18 17:00)

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