社説/米欧「対中関税」引き上げ 保護貿易と報復の連鎖に懸念

(2024/6/14 05:00)

米国に続き欧州連合(EU)も、中国製品への関税を大幅に引き上げる。中国政府の補助金を受け、過剰生産された廉価な中国製品が公正な競争を阻害しているとの判断だ。だが中国政府の報復は必至で、過度な保護貿易と報復の連鎖が、世界経済を減速させないか懸念される。

EUの欧州委員会は12日、中国から輸入する電気自動車(EV)に最大38・1%の相殺関税を7月4日から課すと決めた。現在、中国製EVの関税は10%で、最大48・1%に達することになる。EUは2023年10月から、廉価な中国製EVと補助金の関係を調査していた。中国のEV輸出の約4割が欧州向けとされ、外需依存に傾く中国にとって大きな痛手となろう。

ただ自動車の対中輸出が多いドイツなどは、中国の報復措置を警戒する。またEUにとって中国は最大の輸入相手国で、中国も内需停滞と米中対立を背景にEUでの商機拡大を目指していた。今回のEV関税を発端に経済関係がどこまで悪化するのか、注視する必要がある。

他方、欧州議会選では「自国第一主義」の右派が躍進した。自由貿易や気候変動問題に影響を及ぼさないかも注視したい。

バイデン米政権は5月、通商法301条に基づき、中国製EVへの制裁関税を25%から100%に引き上げる措置などを表明した。EUと同様、中国の過剰生産・不公正貿易への対抗だが、米大統領選を見据えた「内向き志向」なのは明らかだ。

中国の過剰生産は是正されるべきだ。補助金を受けた廉価な中国製品は世界経済を混乱させる。ただ米国の過度な保護貿易にも問題がある。バイデン政権は全米鉄鋼労働組合(USW)に配慮し、日本製鉄のUSスチール買収にも否定的だ。国際通貨基金(IMF)は米国が開放的な貿易を維持するよう求め、米国の保護貿易は得策ではないとする。バイデン政権はIMFの指摘にも耳を傾けてほしい。

中国の外需依存の背景には、不動産不況を発端とする内需の停滞がある。中国は内需拡大の改革に動き、貿易摩擦を緩和する施策を講じてもらいたい。

(2024/6/14 05:00)

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