(2024/6/28 12:45)
次世代航空機の開発でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)は重要なテーマ。豊田工業大学の半田太郎教授は航空機の燃費向上、低騒音化につながる気流制御デバイスの開発に取り組む。高速気流を制御する技術でデバイスの駆動条件や配置を最適化して空気抵抗の低減、機体の軽量化を可能とする。低炭素社会で優位性が高い技術として、次世代航空機への実装を目指している。
航空機は翼の上に並ぶ突起物のような外観の渦発生器という装置を備える。旋回などで姿勢を変える際、翼に沿って流れていた空気が離れて気流の状態が不安定になる「剥離」という現象が生じる。渦発生器は剥離流れを抑え、機体が不安定になるのを防いでいる。
安全航行に欠かせない装置だが通常航行時は必要がなく、空気抵抗を上げてしまい、燃費悪化につながる。電動航空機など次世代航空機の普及にあたり、解決策が求められている課題の一つだ。
開発するデバイスは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務として取り組む。数十キロヘルツの高周波で鳥の羽ばたきに似た動きをする(フラッピングジェット)噴流を発生し、翼上の気流に刺激を与えて剥離を抑える仕組み。空力騒音の低減とともに、噴流の吹き出し口を設けてデバイスを埋め込めば、空気抵抗の原因になる物体を取り付けることなく気流の制御が可能になる。
デバイスは必要な時にだけ駆動させることを想定。配置の最適化でフラップなど高揚力装置を軽量化できれば、燃費向上に大きく寄与できると見る。
デバイスの駆動には客室用の圧力を調整するシステムを活用する考えだ。上空の大気との気圧差で音速以上の噴流を発生できるため「特別な電源は不要。ほぼメンテナンスフリー」(半田教授)。デバイスの構造はシンプルで、3次元(3D)プリンターでの製作を視野に入れている。
これまでの研究から、渦発生器を現在開発中のデバイスに置き換えると1―2%の空気抵抗低減を見込む。二酸化炭素(CO2)削減効果は航空機全体で年間800万―1200万トンと試算する。
研究開発を加速するため半田教授を中心に名古屋大学などとグループを組み、低騒音化、デバイス配置の最適化など制御手法の確立に共同で取り組む。性能評価に不可欠な実証は海外で試験する計画だ。
実証は実機と同じ気象条件下で行う必要があるが、日本には低温低圧条件を模擬できる風洞がない。そこで、ドイツ航空宇宙センター(DLR)が保有する実機レイノルズ数風洞を使い、実機の気流と同じ条件で試験を行い、性能を評価することにしている。
政府は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、航空機産業を成長分野として育成する方針を示す。「高速気流制御技術を航空機の燃費向上、低騒音化につなげ、日本の航空機産業の発展に貢献したい」(同)と将来を見据える。
(2024/6/28 12:45)
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