(2024/6/28 12:00)
―日本を代表する複数の電機メーカーで開発者として勤め、製造業の危機や復活の方法論を説いています。
「光磁気ディスクを開発していた1990年代、電機メーカーの多くは世界でトップを走っていた。これに対し欧米は必死に日本の品質管理やチームワークを研究し巻き返しを図った。しかし日本は性能に固執する開発などを続け、扱いやすさを求めるニーズの変化から離れていった。欧米流の個人主義が強まり、組織力とチームワークも弱まった。労働生産性は先進国の下位に落ちた。手を打たないと本当に埋没してしまう」
―製造業復活の論点をどのような構成で整理しましたか。
「1章は品質管理の指導で第一人者の福原證氏、品質工学の米国コンサルタント・田口伸氏との対談とした。2人とも本書の共著者で、福原氏は品質管理の盛衰、田口氏は日本から学んだ米国製造業の復活などを生々しく論じている。2章以降でイノベーション(技術革新)に必要な経営の方針管理、米国の品質管理DFSS(デザイン・フォー・シックスシグマ)、DFSSを日本版に改めた新たな技法などを説いた」
―製造業に意識改革が求められています。
「日本製が強みとする安定した機能や壊れない品質は当たり前になった。今は新しい価値を生めるかの競争に変わっている。製造業が世界のトップに立った時から価値を創造しなければならなかったが、それができなかった。製造業が生き残るには戦後に欧米から学んだように技術開発のプロセスをもう一度学ばなければいけない」
―欧米から学べる思考や実践法はありますか。
「DFSSはチームで技法を使い、独自技術を生かせる潜在ニーズを発想するよう仕組まれている。技術開発のプロセスに品質工学やQFD(品質機能展開)などの技法が組み込まれ、技法を使う理由が理解しやすくイノベーションを生みやすい。欧州の品質管理発表会では大学教員が発案した技術開発プロセスを自動車メーカーに入り込み実践し、論文にまとめていた。聞いてみると、品質と名が付く学問は『実験室が企業』で数社と契約するという。教員が大学の外に出にくい日本と違い産学連携のレベルが深い。一体で企業の技術開発プロセスや組織力を強めている」
―具体的な方法論にも切り込んでいます。
「経営は品質と機能を上流から造り込むフロントローディング開発や新技術の目標などを定める。そして目標を達成するため部門ごとに課題を細分化し、適する技法を選んでいく。こうした技術開発プロセスの方針管理が欠かせない。日本は品質工学などがブームになると一斉に使うが、ほとんど定着しない。方針管理がなく現場に丸投げし、技法が目的化してしまうからだ」
―壁を破るには。
「設計の最適化を試みて限界も知り、技術のメカニズムにまで迫れば、着眼点や思考を助ける技法で発想も得やすくなる。チームワークで競争力を取り戻し、失われた30年に終止符を打ちたい」
(2024/6/28 12:00)
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