宇宙と地球の光通信品質低下を防ぐ SCREEN HD、補償光学系デバイス

(2024/6/28 12:30)

「大気のゆらぎ」整えて解消

SCREENホールディングス(HD)は、宇宙と地球の光通信速度向上の障害となる「大気ゆらぎ」の克服に挑む。大気ゆらぎは衛星と地上基地局で光通信する際、大気で光の波面が乱れる現象で、通信品質低下の原因となる。同社は国立天文台、情報通信研究機構(NICT)と連携し、乱れた光の波面を整えるデバイスの研究開発を進める。3者で連携し、衛星光通信の高速化・大容量化に貢献する。

  • 直接描画装置「LeVina」

衛星と地上間の通信需要は年々増加しており、世界で大気ゆらぎの克服に向けた研究が進む。天文学で効果が実証済みの「補償光学系」の技術を光通信に応用する動きが盛んで、最先端は米航空宇宙局(NASA)が2023年に達成した毎秒200ギガビット(ギガは10億、Gbps)の通信実験だ。

これに対しSCREEN HDは、国立天文台、NICTと連携し、Gbpsを超えるテラ(テラは1兆、T)bpsクラスの高速光通信の達成を目指す。大気ゆらぎで歪(ひず)んだ光波面を2次元に制御し、波面を整える「補償光学用2次元光位相変調デバイス」を26年までに開発する計画。

3者の提案は総務省の外部委託研究テーマに採択されており、総務省は衛星光通信が社会実装される30年頃には、Tbpsクラスの大容量光通信が必要になるとみる。30年代には月や惑星を周回する衛星と地球の長距離光通信が必要になるとし、ハイパワーレーザーへの耐性も備えたデバイスの開発を目指す。

そのためにSCREEN HDは微小電気機械システム(MEMS)の一種「一次元回折型光変調素子(GLV)」や光学技術のノウハウを生かした「二次元光位相変調素子(PLV)」を開発する。すでにGLVを半導体パッケージ基板など向けの「直接描画装置」に使っており、ハイパワーレーザーのハンドリングや放熱機構のノウハウを持つ。

PLVデバイスは独立したミラーを100×100個並べる。各PLVミラーを100キロヘルツ以上の速度で制御できるようソフトウエアやシステムを開発し、細かく光波面の歪みを補正する。PLVは二層構造で、上面に鏡、下面に電極を配置。電圧の変化により鏡の高さが変わり、光波面の形状を制御する仕組み。1平方センチメートル当たり100ワットのハイパワーレーザーへの耐性を持つデバイスの開発を目指す。国立天文台やNICTは、光通信波面の補正アルゴリズムや評価システムの構築などに知見を生かす。

PLVの最初のターゲットは地上基地局と衛星の光通信だが、SCREEN HDはその先のビジネス展開も模索する。補償光学技術の展開先は広く、イノベーション推進担当の小久保正彦執行役員は「今回のPLVは高速性と高耐パワー性が特長で、レーザー加工機やバイオイメージング分野での補償光学技術への応用が期待できる」と展望を話す。直接描画装置に加え、顕微鏡や、眼底カメラなど医療・ライフサイエンス分野など向けに展開できると見込む。

(2024/6/28 12:30)

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