(2024/7/12 05:00)
上場企業による「早期・希望退職」の募集が増えている。黒字企業が多く、好業績のうちに構造改革に取り組む企業が目立つ。労働市場が退職を勧奨しやすい売り手市場にあることも背景にあるという。不採算事業の見直しなどの構造改革は、東京証券取引所が促している株価純資産倍率(PBR)の改善にもつながる。資本効率と企業価値を向上させる取り組みはさらに進展するのか、注視したい。
東京商工リサーチによると、2024年上期(1―6月)に早期・希望退職を募集した上場企業は36社で、前年同期の24社の1・5倍。募集人員は前年同期比3・6倍の5364人だった。黒字企業は21社と全体の58%を占め、この21社による募集は全体の95・5%に当たる5126人に達した。歴史的な円安の恩恵を受けた輸出主導企業などが、好業績のうちに事業セグメントを見直しているようだ。
業種別では、不採算事業を見直した電気機器が全体の25%に当たる9社と最多だった。
24年(暦年)の見通しは、好業績企業の構造改革に加え、物価高による業績不振企業も増えるため、募集人員は3年ぶりに1万人超となる可能性もあるという。幸いにして労働市場は堅調で、5月の有効求人倍率は1・24倍と売り手市場が続く。企業は退職を勧奨しやすい労働市場環境であるかも確認したい。
事業の選択と集中は、賃金上昇で増額している固定費を抑えるだけでなく、東証が促すPBRの改善にもつながる。東証は株価の割安具合を測るPBRに着目し、これが1倍を割る企業には改善策を示すよう求めている。PBRは株価を1株当たり純資産で除した指標で、成長分野への積極的な資金投入や、低採算の事業見直しなどを推進することが期待されている。アクティビスト(物言う株主)対策ともなり、改善を目指したい。
ただPBR改善に向けた自社株買いなどの株主還元は、効果が一時的とされ、企業価値の向上に結びつくとは限らない。企業は中長期の視点で資本効率を向上させる施策こそ優先し、持続的な成長を目指してほしい。
(2024/7/12 05:00)
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