社説/トランプ氏「正式候補」に 米国と世界の「分断」深化に懸念

(2024/7/17 05:00)

米国の共和党全国大会が15日(現地時間)にウィスコンシン州で開かれ、トランプ前大統領が同党の大統領候補に正式に指名された。この2日前に起きたトランプ氏銃撃事件が、大統領選に及ぼす影響は現時点では見通せない。ただ事件を機に民主・共和両党が先鋭化し、暴力の連鎖と米国の分断が進みかねない。米国の内向きの争いを歓迎するのは世界の権威主義的な指導者だけであると、米国社会も大統領候補者も再認識したい。

トランプ氏は共和党全国大会の最終日である18日、候補者指名を受けた演説を行う予定だ。銃撃事件に屈しない強い指導者への支持率が上がるとの見方もある。だが高齢が不安視される民主党のバイデン大統領も、月内にも正式に大統領候補に指名されれば、民主党の結束も固まるはずである。予断を持たずに選挙戦の行方を見守りたい。

大統領選に向けた演説中のトランプ氏への銃撃は、民主主義の根幹を脅かす凶行であり、断じて許されない。ただ共和党がバイデン政権を非難するため、事件を政治利用することは戒める必要がある。暴力の連鎖が進みかねず、話し合いで物事を解決する民主主義に逆行することになる。権威主義国を喜ばせる事態は回避する必要がある。

トランプ氏は、皮肉にもこれまで民主主義を軽んじてきた。20年の大統領選での敗北を認めず、支持者による連邦議会議事堂の襲撃をあおったとされる。トランプ氏は今回の銃撃事件を機に、民主主義に対する誤った認識を修正してもらいたい。

仮にトランプ氏が米大統領に返り咲いたら、世界の分断をさらに深めかねない。同氏は米国のウクライナ支援に懐疑的で、武力による現状変更が実現すれば中国の台湾統一が勢い付く。また現政権よりイスラエルを支持するとされ、中東情勢の一段の悪化も心配だ。パリ協定(気候変動問題に関する国際的枠組み)から再離脱する可能性もある。中国に60%超の関税を課せば、米中対立の影響は日本にも及ぶ。米国で懸念されている分断が世界でも深化しないか、米大統領選の行方に警戒したい。

(2024/7/17 05:00)

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