先天性無歯症の治療へ「歯生え薬」開発 医学研究所北野病院など

(2024/10/4 12:00)

年内治験開始 30年実用化へ

  • 治験は産学官連携で進める。北野病院の高橋克歯科口腔外科主任部長(左から2番目)ら関係者(2024年5月、北野病院で)

世界初とされる、歯が新たに生える薬の開発に向けた臨床試験(治験)が動き出す。医学研究所北野病院(大阪市北区)などの研究グループが、生まれつき歯が少ない先天性無歯症を治療する「歯生え薬」の医師主導の治験を2024年内にも京都大学医学部付属病院で始める。歯の再生治療薬として30年の実用化を目指す。

乳歯が抜けたのに永久歯が生えてこない、15歳になっても乳歯が残っている―。これらに心当たりがあれば先天性無歯症かもしれない。先天性無歯症は生まれつき歯の数が通常より少ない疾患で発症率は人口の約1%。特に、遺伝的な要因で6本以上少ない患者は人口の約0・1%いるとされる。根本的な治療法はなく、子どもの時期は成長に合わせて入れ歯を作り替えるなど負担が大きい。成人になってからも義歯やインプラントを用いた代替治療しか選べない。歯の再生治療の開発が強く望まれている。

歯生え薬は歯の成長を抑えるたんぱく質「USAG―1」を標的としている。永久歯のもとになる「歯の芽」の成長を阻んでいるUSAG―1を抗体薬で不活性化すれば歯が生えるという仕組みだ。研究グループは07年、USAG―1を働かなくさせたマウスが通常より多い歯(過剰歯)を形成することを発見した。その後、先天性無歯症のマウスや犬にUSAG―1の働きを止める薬を投与し、歯が生えてくるのを確かめるなど研究成果を積み上げてきた。一方、USAG―1の機能を抑える抗USAG―1抗体を作製して知的財産権を取得し、京大発ベンチャーのトレジェムバイオファーマ(京都市上京区)を20年5月に設立した。

治験ではまず、臼歯(奥歯)を1本以上失った30―64歳の健康な男性30人に薬(抗体製剤)を点滴で投与して安全性を確かめ、適切な投与量を調べる。25年8月までの実施を予定する。その後、歯が通常より4本以上少ない2―7歳の先天性無歯症の患者数十人に投与し、薬の有効性を検証する次の段階の治験を進める計画だ。

先天性無歯症向けの歯生え薬が実用化した際の治療費は未定だが、インプラント3本分ぐらい(150万円程度)を想定している。

研究グループは将来、虫歯や歯周病、けがなどで後天的に歯を失った人も歯を再生できる可能性があるとみている。薬を投与し、永久歯を失った後に生える「第3生歯」の芽を成長させる治療法を計画する。これまでフェレットに薬を投与し前歯を6本から7本に増やす実験に成功している。

国内には歯の欠損がある患者が高齢者を中心に5800万人以上いるとされる。第3生歯の歯生え薬による再生治療法が確立すれば、歯科治療に有力な選択肢が増える。生涯を通じて自分の歯で食事を取れるようになり、健康寿命の延伸にも貢献しそうだ。

北野病院の高橋克(かつ)歯科口腔(こうくう)外科主任部長は「歯がなくて困っている方々を何とか助けてあげたい。(先天性無歯症は)根治的な治療法がなかったので、期待は非常に大きなものがある」と話している。

(2024/10/4 12:00)

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