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(2016/7/6 05:00)
【オンリーワンの横編み機/強い円高抵抗力、内製75%】
島精機製作所はコンピューター横編み機のトップメーカーで、世界シェアの60%を握る。円高となっても国内生産を貫き、日本、米国、中国、欧州、アジアと世界中に輸出している。それを可能とするのは、衣服を縫わずに丸ごと編める「ホールガーメント横編み機」に代表されるオンリーワン技術。アパレル業界に高い品質と生産性をもたらし、価格競争に巻き込まれないブランド力で円高をはね返してきた。島正博社長は「人件費の高い先進国でも衣服の生産事業が成り立つ高付加価値な機械を提案したい」と、意欲を示す。
(南大阪支局長・田井茂)
島精機は海外に現地法人13社、支店1カ所、販売・技術サービス拠点127カ所を置くが、工場は本社のみ。アパレルメーカーが製造先を低賃金の途上国へ移し、繊維機械メーカーも多くが工場を海外に移転したが、同社は踏みとどまってきた。島社長は「1ドル=79円の時代も耐えた。今や高機能な横編み機で競合するのはドイツのストールだけ。円高でも顧客と相談して価格を決められる」と余裕をみせる。
1978年にコンピューター制御で動く世界初の横編み機を開発し、95年にはホールガーメント横編み機も完成。独創技術で円高への抵抗力を強めてきた。エルメス、グッチ、アルマーニなどの高級ブランドを生産するファッションの本場、イタリアにも顧客が多い。顧客に操作を教える本社の「講習室」には15年、30カ国から受講生が来た。顧客専用のマンションや送迎バスも完備する。海外の技術サービスはすべて現地社員に任せている。
しかし、生産は国内に徹し、内製率も75%に達する。「ない部品はネジ1本でも内製する。まねされないため、設計は外に出さない」(島社長)。特殊鋳造や焼結、熱処理、プリント基板実装などもノウハウであり、外注しない。「面倒くさいモノづくりだが、不具合が起きても社内ですぐ解決できる。海外生産は考えられない」(同)。独創技術を積み上げ、ホールガーメント横編み機では針、カム、機構、編み機本体、コンピューターグラフィックス(CG)などで2000件もの特許を取得した。
高い付加価値化で自国生産を守ってきた手法を顧客にも広め、先進国での販売を伸ばそうとしている。CGシステムでは、コンピューターで衣服を立体的に仮想デザインできる。実物で試作を繰り返す従来の方式に比べ、材料や時間を大幅に減らせる。CGシステムにより、究極には個々にデザインが異なるオーダーメードの衣服づくりが可能な事業モデルの提案を目指す。「そうすれば先進国の都市でも、ニーズを先取りした衣服をスピーディーにデザインし、低コストで生産するビジネスを創り出せる」と島社長は強調する。
例えばイタリアでは省人化を図る顧客から、横編み機を10台から30台に増設する注文を受けた。人件費をみると、中国は高騰し「世界の工場」ではなくなり、アジアの途上国でも上昇している。アジアで大量に衣服を生産するアパレル業界の常識に、風穴を開けようとする。
(2016/7/6 05:00)