[ オピニオン ]
(2016/7/20 05:00)
ソフトバンクグループが、半導体大手の英ARMを約3兆3000億円(240億ポンド)で買収することを決めた。IoT(モノのインターネット)時代をにらんだ超大型投資であり、孫正義社長の決断に敬意を表する。日本には電子部品をはじめ、IoTの構成要素となる技術や製品が数多くある。そうした業界とも連携をはかり、日本経済全体の競争力向上につなげることを考えてもらいたい。
ARMは超小型演算処理装置(マイクロプロセッサー=MPU)の設計開発を得意とする。同社の技術はスマートフォンの大半に搭載されているだけでなく、各種の制御装置の頭脳部分として広く使われている。
日本の半導体メーカーは、過去にこの分野に何度か挑戦したものの、成果をあげられなかった。業界全体が大きく縮小した今となっては追撃も難しい。ソフトバンクによる買収という形で、ARMとの関係ができたことを喜ぶべきだろう。
パソコンの性能を左右するのは、高性能MPUを供給する米インテルだ。ただIoTのようにネットの裾野を広げるためには、消費電力が少なくて価格が安いARMの技術の方が適している。各種の制御機器に組み込まれるARM製品をベースにIoTを開発すれば、世界標準になる可能性は十分にある。
もちろんMPUだけでIoTは実現できない。通信機能やデータの解析・応用などとの連携が不可欠だ。同時にデータを集めるセンサーや、装置を駆動するモーター等ともつながらなければIoTは真価を発揮できない。日本が得意とするこうした分野を活用しつつ、IoTを加速していくことを期待する。
ソフトバンクの孫社長に対する産業界の評価は、一様ではない。孫氏と共同事業に乗り出して失敗した経験を持つ企業もある。しかし日本における情報革命の先導者として、これまで孫氏が果たしてきた役割は小さくない。業界の枠を越えた新規事業進出や超大型買収の経験も、一度や二度ではない。孫氏の革新性と実行力には、やはり産業界が学ぶべきものがある。
(2016/7/20 05:00)