[ オピニオン ]
(2016/7/21 05:00)
政府の基盤技術強化策が新たな段階に入った。複数の大学など研究・開発機関を、融合テーマごとにまとめたのが大きなポイント。これにより、その技術を利用する企業との共同研究や産学官連携がさらに進むとみられる。イノベーション創出に向けた効果を期待したい。
基盤技術とは、多様な研究開発分野を横断的に支える共通の科学技術のこと。戦前から開発の歴史があるナノテクノロジーや光科学、近年台頭が著しい人工知能(AI)や数理科学などが該当する。また、これらに関わる観察・計測や解析、設計、制御の手段も基盤技術のひとつ。“縁の下の力持ち”ながら、広範な応用につながる将来性を兼ね備えている。
文部科学省は2016年度の新事業として「先端研究基盤共用促進事業」に着手し、5件の支援を決めた。高エネルギー加速器研究機構などは「光ビーム基盤技術」として、異なる波長域の放射光活用や、放射光とレーザーの両領域を理解した次世代人材育成に取り組む。海洋研究開発機構は全国各機関の風洞試験設備のデータと、同機構が得意とするシミュレーション技術をつなげる高度利用支援を進める。
従来の国の基盤技術支援事業は、個別の研究開発機関に補助金を支給するものだった。これに対して新事業は、大学・国立研究開発法人を3―8機関ずつひとつにまとめたのが特徴。これにより、さまざまな相乗効果が見込めるという。
過去の例を見ると、東北大学の風洞試験設備では、利用企業の要望に3割しか応えられなかった。しかし風車の発電効率測定を求める中小企業に、より適した設備を持つ他大学を紹介してうまくいった経験がある。
同分野の他機関と連携すれば、低コストで新たな効果を発揮できる可能性がある。またこうした連携によって、企業の技術者が「こんなデータがとれるのか」などと刺激を受けるケースも出てこよう。研究の質の向上に加えて、効率化という経済効果も狙った政府の新たな取り組みに注目したい。
(2016/7/21 05:00)